診察を中断して診察状況を確認してきてくれたF医師
病院を変えようとした矢先のことであった。
手足の皮膚が激しく痛み出した。歩こうとしたが脚に力が入らず千鳥足のようになってしまうし、手で物を握ろうとしても指にも力が入らず、つかめなくなった。数秒だが目の前が真っ白に光り、何も見えない状態になった。これまでになかった症状に、ただ事ではない異変を身体に感じた。
一九七三年、私が高校生だったときに関節リウマチと診断された。その治療のため、一九八八年から十八年間は、A大学病院整形外科のリウマチ診に通院していた。
主治医はリウマチ専門医の客員教授であった。そのため治療薬、血液検査、X線写真などのデータがあるから、やはり今は病院を変えず、同じ大学病院の眼科に行ったほうがいいと、夫も私も考えた。
夫は仕事を休めなかったので、介護保険のヘルパーに付き添ってもらい、車椅子で眼科の診察を受けに行った。
F医師が診察してくれた。F医師は四十歳前後の男性の講師で、さっぱりとした話し方をした。
その診察では目に異常が見られなかったが、私の具合があまりにも悪そうに見えたのか、身体の状態を尋ねてくれた。私は病院に来るだけで疲れてしまい、声を出す気力も乏しくなっていたが、切羽詰まった思いで前述の症状に加え、この数年の症状も併せて話した。
太ももの筋肉に痛みが強くあり、血液検査で炎症度やリウマチ因子の数値が非常に高かった。リウマチ因子とは抗体の一つで、この数値が高いとリウマチが疑われる。ただリウマチだけに限ったものではなく、ほかの膠原病(こうげんびょう)や慢性肝疾患などの病気でも陽性になることがある。
ほかにも貧血がかなり強く、身長一六〇センチで五〇キロあった体重が四〇キロにまで減少してきたこと、具合が悪くて家でも横になってばかりいることなどである。
するとF医師は、
──整形外科のリウマチの医師は患者をこんなになるまで放っておいて、何をやっているのだ──
と言った。それについて説明しようとして、私はつぶやくような声でこんなことを話した。
「客員教授が手術を失敗すると、客員教授はもちろんのこと助教授(当時)も非常勤講師も、もう誰も真面目に診察をしてくれないようです。だから病院を変えようと思っていたところでしたが、今回は緊急のことなので、やはりこの病院の眼科に来ました」
するとF医師は驚いた様子で、
──眼科は、教授も講師も助手もそれぞれが独立した立場で診察しているから、そんなことはないけどなあ──
と言いながら、慌てて診察室を離れた。