一時間以上して戻ってきた。看護師はすぐにF医師のもとに行き、診察を待っている患者さんたちが、診察はどうなっているのかと騒いでいますと言った。F医師は、この患者は重症患者だから、もう少しだけ待つように言ってほしいと答えた。私はやはりそんなに重症患者なのだろうかと思った。
さらにF医師は、
──患者一人ひとりに尋ねて、病状に変化がないから今日は薬をもらうだけでいいという人がいたならば、その患者の診察は中止にするから、その人に処方箋を出しておいてほしい──
と看護師に言ったあと私の前の診察椅子に戻り、
──整形外科は腐っている──
と言い捨てた。
当時、眼科は整形外科と数百メートル離れた別の棟にあったが、診察を中断し、わざわざ整形外科に行って私の診察状況を確認してきてくれたのだと思うと、感謝に堪えなかった。
──主治医の脇でカルテを書いていた若い医師だけは、本当に良い先生だからね──
とF医師は付け加えた。カルテを書いていた若い医師とはT医師のことだと思った。整形外科リウマチ診の客員教授の診察の際にも非常勤講師の診察の際にも同席していたから、私の診察状況を話してくれたのだと思った。
T医師はその五年前に私が左膝の人工関節置換手術を受けたとき、研修医だった。私を受けもった診療班とは別の班だったが、私の班の研修医が採血をしようとして私の腕を見るなり、
──ちょっと待っていて──
と言ってT医師を呼んできた。私の腕を見て自分では採血が難しいと考えたのであろう。T医師は簡単に私の採血をした。私の班の研修医は、
──やっぱり君は採血がうまいなあ──
とT医師に言った。私に痛い思いをさせたくないと考え、T医師に頼んでくれたのであろう。T医師も気持ち良く引き受けてくれた。二人の研修医に感謝した。二人は私にやさしくほほえんでくれた。そんなことまで思い出した。
眼科のF医師は今後の治療について、私に話しはじめた。
──あなたの症状は緊急を要するものだから、新しい病院で一から検査をするより、この大学病院で至急に治療を受けたほうがいい。この大学病院では関節リウマチの患者を整形外科だけでなく内科でも診ていて、大学の部活の友人M医師がリウマチ内科にいる。明日診察してくれると言っているが、そうするならば手配する──
私はこんなことになるまで整形外科リウマチ診の客員教授を信頼していて、この先も主治医として診てもらうつもりだったので、同じA大学病院にリウマチ内科があることを知らなかった。その医師の診察をお願いすると、F医師は必ず来るようにと私に念を押した。