第二章

付き合って数か月後に、二人ともほろ酔いでいい気分だった時、初めて性交渉を持った。

彼は自分の性欲を全面に押しつけてくることは全くなく、ただキスして抱きしめてくれたり、優しく愛撫してくれたり、それだけだった。私が嫌な気持ちにならないように、それだけを考えて、してくれた。彼が挿入して射精することはなかった。女友達が言っていたようなイクという感覚は分からなかったけれど、彼の愛情を十分に感じることができる時間だった。

私はそれまで、男性は勃起した自分の陰茎を女性の膣に挿入して射精するのがセックスだと思っていたから、正直、面食らった。そういう表現方法もあるのかと。その時、それで男性が満足できるものなのか、聞いてみた。健太は、不思議そうな面持ちで答えた。

「そりゃ、そうでしょ。真希ちゃんがよかったら、それでいいじゃん。いわゆるスローセックスっていうのかな? よく知らないけど。男がイクだけがセックスじゃないでしょ。相手がいるんだから。ただ抱きしめ合ったり、一緒にお風呂に浸かって語り合ったり、それだけでも十分幸せだよ、俺は」

それを聞いて、彼の方が年上なのではないかと思った。私は性的に未熟だった。

――良きパートナーというのは、こういう人のことをいうのだろう。

その時、すごく心が軽くなったことを覚えている。

それまでは基本的に男性と二人で長時間過ごすのは苦手で、彼氏と二人きりで一日以上過ごすなんて、苦痛でさえあった。昼間一緒に遊ぶのは楽しかったが、夜になると、またセックスしなきゃいけないのだろうか、我慢して受け入れなければならないのだろうか、という沈んだ気持ちになったから。

それさえなければ、よかったのに。

向こうは、いつも求めてくる。

これでは、うまくいくはずもなかった。

自分から男性に告白したことは一度もなく、告白されて付き合っても“まぁいいか”という心持ちで、前向きな承諾ではなかった。結局、いつも三か月と持たなかった。

だけど健太に対しては、そういうプレッシャーもないし自然体でいられた。成人して以降、男性と半年以上も付き合うなんて、初めての経験。

それまではマンションの一室を借りて住んでいたが、健太が来ると手狭だった。ある程度お金も貯まったし、歳も歳だし……と思い立って、二月の誕生日を迎える前に新築マンションの一室を購入。もう少し広い部屋に引っ越し、新たな環境での生活が始まった。