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(F20)統合失調症、(F23.3)急性一過性精神病性障害のその他の妄想を主とする1例
Acasereportofamandiagnosedas(F20)schizophreniaand(F23.3)otheracutepredominantlydelusionalpsychoticdisorders
石川文之進 鈴木三夫 池田啓子 石川雅枝 石川叔郎 石川玄子 原田元 深見忠典
要旨
厳格な父に育てられ、青年時に非定型精神病を発症して入退院を繰り返し、妄想・幻覚から父の頸を絞めるなどした32歳男性の症例を報告する。本症例は確信に満ちた恒常性の幻覚妄想状態を示すが統合失調症は否定され、急性精神病性障害であり、持続睡眠療法(大量向精神薬投与)、精神療法により寛解した。
keyword
急性精神病性障害、持続睡眠療法、精神療法
患者概要
家族歴
父方:父は保険代理店経営者。本症例を厳しく育て、何度も頸を絞めるなどの家庭内暴力をふるう。
母方:母は本症例25歳時に癌で死亡。
同胞(本人含む):男子2人、女子1人。本症例は次男。兄は歯科医師、妹は一流企業の従業員。
本人歴
男性、当院入院時32歳、無職。幼少期より、頻繁に迷子になる(発達障害の疑い)。
15歳~:15歳、私立中学校を卒業。自閉傾向、家庭内暴力で、カウンセリングを受ける。私立高校を中退し、通信制高校を卒業後に専門学校に入学するが中退。
時期不詳:「養子になって結婚、11カ月後に離婚。夫婦生活は良」(本症例申し立てによる)。
21歳:B病院に入退院。診断は統合失調症。
23歳:「誰かに狙われている(妄想)」。C大学病院に入退院(3回)。
25歳:母、死亡。
26歳:妄想が活発化、警察に乗り込む。
27歳~:7カ月時、D病院に入院(1カ月)。父の頸を絞める。9カ月時、E病院に入院(措置入院→医療保護入院。約2年)。家庭内暴力あり。
30歳:F病院に入院(1カ月)。
31歳:統合失調症、幻覚妄想状態で、G医院を受診。1カ月時、H病院に医療保護入院(1年1カ月)、診断は統合失調症。「I大学医学部を電話ダイヤルで卒業した(妄想)」と言うなど、思考的には電話に支配され、常にダイヤルによって行動する。7カ月時、無断離院。
32歳:H病院を退院。「医師として病院に就労面接に行った。勤務する病院近くのマンションを購入した。宝くじも当たった(妄想)」と言う。「父は不死身だ」。3カ月時、交番で「父が死亡している」と騒ぎ、「万引きをした」と自首、父が弁済し、示談となる。3カ月中旬、当院精神科最重症病棟に任意入院。
入院経過
32歳3カ月:当院任意入院。
(B医師):①「疲れた」、②覚醒剤、シンナー吸引なし。不良ではない、③幻聴あり。「罰金、金おろしてやる」、両耳に男の声で「早く死ね」、死んだ母の声で「頑張れよ」、④妄想あり。診断は統合失調症。リスペリドン×6錠、ビペリデン塩酸塩×3錠、レボメプロマジンマレイン酸塩100mgを処方。不穏不眠時には、エスタゾラム×1錠、レボメプロマジンマレイン酸塩50mgを処方、ジアゼパム1ampōuleおよびレボメプロマジン塩酸塩1ampōuleを注射。
下旬:精神状態悪化し、興奮顕著、不穏著しく不眠。ヘラヘラ笑いで応答、顔貌は良。「疲れた、お金がない」「暴力を受けそうになったので父の襟をつかんだだけで、頸を絞めたのではない」「魂の薬が欲しい」。リスペリドン1ampōule×2回/月注射。「Kで仕事したい」。
32歳4カ月:「退院後はグループホームに入りたい」「3年と言われた。いつも半年くらいで退院している」。幻聴は「以前聞こえた」。「転院したい。L病院でゆっくりしながら治療したい」「精神保健福祉センターへ退院請求した」。Weiblich、女性的姿態・態度、すべすべした皮膚。染色体はXYで正常。
32歳5カ月:めめしい応答、空虚(leer)、幻聴あり。非定型精神病(Atypischepsychose)。32歳6カ月:応答、接触(Rapportkontakt)良。顔貌や表情は自然で豊か。「今は幻聴がない、大丈夫です」。セブンテストでは1字誤り。数列復唱検査実施(表1参照)。「早く作業療法に行きたい」「最近夜になると、もやもやして耐えられなくなる」「妄想もない。なんで入院しているんですか」。病識あり。
32歳7カ月:甘い、しょっぱい感覚あり。味覚良。
32歳8カ月:けろっと、元気、ニコニコ、優しさあり。顔貌、応答良。クロルプロマジン(CP)換算値700mg。外出し、無事帰棟。
32歳9カ月:レクリエーションに参加。外出。
32歳10カ月:全身状態、眼球運動良。リスペリドン1ampōule×2回/月の注射は年内で1クール終了。症状改善。