転機となったシステムエンジニアへの配属

私は営業専従だったわけではなく、3年ほどSE(システムエンジニア)と呼ばれる職務に就いたことがあります。電機メーカーのSEとは、どんな仕事をする職種なのか少し説明しましょう。一般にはシステムエンジニアという呼び名のとおり、SEは情報システムなどの設計や構築を行う職。ハードウェアやソフトウェアの設計・構築から、完成したシステムの設定や保守・点検まで、仕事の内容は多岐にわたります。

「ソフトウェアをプログラミングするプログラマーとなにが違うの?」

と思われるかもしれません。ほかのメーカーはわかりませんが、NECではSEとプログラマーはまったく別もので、システムの設定や保守・点検が主な仕事でした。パソコンが普及するにつれて、パソコン単体の使用、いまでいうスタンドアローン(ネットワークやほかの機器に接続せず、単独で動作している環境)で使うことが少なくなり、ネットワークで動かすことが多くなっていました。

たとえば、学校にパソコンが導入され、パソコン教室に40台ほど配置された端末がすべてネットワークにつながっている場合、先生が示した画面を子どもたちが見ている端末のモニターに一斉に映し出す必要があります。NECが開発したそのようなシステムを学校に取りつけて設定したり、保守・点検をしたりするのが、NECのシステムエンジニアです。

この仕事に従事して、営業とは違った視点でパソコンの活用を考えるようになったことが私の視野を広げました。パソコンを売ることだけがメーカーの仕事ではなく、売ったあとに有効に活用してもらうことがいかに大切か、そのための環境設定がいかにたいへんで手間がかかることか、そして、システム活用に関するお客さんのニーズはどんどん増えていくだろうということを、身をもって知ることになったのです。

皮肉なことに、この貴重な体験を得たことが、NECを退職するきっかけになったような気がします。海外ブランドの日本進出とともに、マーケットは新しい製品を求め、NECが誇った98のシェアは下り坂を転がるように低下しはじめていましたし、私の最大の関心事となったネットワーク系の仕事に携わることができる部署へ転属する機会はなかったのです。

「このままNECにいても、新しい仕事にかかわることは難しい。それなら……」

20歳で入社し、10年以上籍を置いて多くのことを学んだ会社に別れを告げたとき、私は33歳になっていました。