「圭人がいいと言ったので、婚約者の振りを続けます」
「そうか、よろしく頼む」
俺は墓石に手を合わせ、心の中で俺の気持ちを伝えた。沙優は俺が幸せにします、婚約者の振りではなく人生の伴侶として……俺と沙優はマンションへ戻った。
「沙優、婚約報告会見開くぞ」
「はい」
沙優は納得してくれた。俺はその日から沙優と夕食を共にした。
「沙優、今日は外食しよう」
「いいんですか」
「ああ、何か食べたいメニューあるか」
「なんでも大丈夫ですよ、嫌いな物はないんです」
沙優はニッコリ微笑んだ。俺はなぜか不安な気持ちが拭いきれなかった。沙優は元彼とは死別だ。結婚式当日にバイク事故で亡くなった。今でも愛しているんだろう。俺を好きになってくれる可能性はあるのだろうか。沙優は俺とは婚約者の振りの関係と思っている。俺が愛しているのは俺の彼女と思っている。
そう、彼女とは一ヶ月ほど会っていない。俺が連絡しなければ彼女からは連絡はない。俺が沙優を助けて一緒に暮らし始めて一ヶ月ほど経つ。今、俺は沙優に夢中だ。今までの俺には考えられないことだ、女に夢中になるなんて……俺は沙優と結婚し、このまま一緒に暮らしたいと考えている。そんなことを考えていると、沙優に彼女の事を聞かれて現実に引き戻された。
「南條さんは彼女さんと結婚したいと思わないんですか」
「ああ、そうだな」
「えっ、どうしてですか、愛しているんですよね」
「どうかな、よくわからない。沙優はどうなんだ、元彼を今でも愛しているのか」
俺は思い切って沙優に聞いてみた。
「そうですね、圭人が亡くなって、もう五年経ってるし、今好きな人が現れたら、その人を愛しちゃうかもしれませんけど……」
好きな人が現れたら、俺は対象ではないってことか。南條さんに、圭人を今でも愛しているかと聞かれて、私ははっきり答えられなかった。五年経って想いは薄れている、その理由は南條さんに惹かれているから。でも南條さんには彼女がいる、決して好きになってはいけない人だから。南條さんは優しい人。もし、このまま婚約者の振りを続けたら、このままずっと南條さんの側にいられるのかなと叶わぬ夢を見てしまう。
ごめんね、圭人。やっぱり私南條さんが好き。でも、南條さんは彼女のもの。とても私なんかが太刀打ち出来る相手ではない。そういえばいつ彼女とデートしてるんだろう。彼女はどんな人かな、南條さんより年下だよね。もし、急に彼女と結婚ってことになったら私どうしよう。南條さんがいないと生きていけない。そんなことを考えていると、南條さんが声をかけてきた。
「沙優、どうした」
私は南條さんに聞いてみることにした。
「南條さん、もし彼女さんと結婚って話になったら、私、一人で生きていけません」「沙優、大丈夫だ、そんな話は全く出ていない」
「でも……」
私はいつかここを出て行かなければならないと思うと、急に不安になり、涙が溢れてきた。