にしても朝から(いや正確には昼だが)ネコの飯の匂いの充満した部屋で過ごすのはなかなかのものだ。

「ほら」

俺は皿に盛った出来立ての飯をパセリのジャンプ力では届かないと思われるタンスの上に乗せてみた。

「早くよこせー! ノロマ!」

パセリはタンスの中段に張り付きモモンガのように伸びた。

「お前さあ、メスなんだからもっとこう……、女らしい言葉を使えないのか? イジワルね、ダーリン……。うふ……。とかさ」

俺は皿を床に置く。パセリは返事をせず大口でそれを食べ始めた。ネコは食っている時は人間の声に一切反応しなくなるようだ。そして、朝の空腹時など、性急に食べる時には時々ゲフッとかグウッとか、まるでオヤジの小さないびきのような音をたてる。ネコに品や色気を求めるのもどうかと思うが、見た目はかなりの美ネコなので、もったいない。

パセリは性格さえバレなければ、ネコ好きが一目で惚れそうなかわいい顔をしていた。それも単純なかわいさではなく、目の外側が多少上がっており、俗に言うツンデレ好きに受けそうな、ネコという生き物に求められがちな高貴さもしっかりとまとった可愛さである。

パセリは気まぐれで、時々やけに甘えてきた。普段の高慢さと、たまに見せる柔順さのギャップが丁度良い具合に作用し、飼い主(召使い)の俺はいつの間にか見事なまでに悩殺されてしまっていた。

パセリは回数多く間食するが、一回毎の量は極わずかで普段は食べる速さもゆったりしているのでスタイルは常にスリム型を保っている。食後、パセリは前足をなめ、その前足で念入りに顔を洗う。野鳥も木の実や果物を食べた後、木の枝にくちばしをこすりつけて綺麗にしたりするものだ。動物は自分の身体を大切にしているな……と、夜中に活動しながらつまんだアーモンドの空袋を眺めつつ感慨にふけってみる。

「じゃあ、そろそろ行ってくるぞ。今日も帰りは九時過ぎになるからな」

パセリは答えず、耳だけピクリと二、三度動かし、

「聞いてるぞ、はよ行け」

というジェスチャーをした。人語を話せても、基本、ネコの体力温存気質は変わらないらしい。

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