吉川が会社で待っていると、佑介と真理の二人が会社にやってきた。

「ずいぶんとでっかい会社だなあ。パパはどこにいるんだろう」

と佑介が言うと、真理は、

「工場って言ってたから、ここにはいないはずよ」

と答えた。二人が受付に行くと、受付嬢に、

「どちらに行かれますか」

と聞かれ、佑介が

「恩田選手のユニフォームを見に」

と言い、真理がすぐに

「いえ、吉川部長さんに会いにきました」

と言い直した。さすが、真理の方がそつがない。

「吉川部長の親戚か、お知り合いの方?」

と聞かれ、佑介は、

「いいえ、僕たちのパパがここの会社で働いてて、それで恩田選手のユニフォームが見られるからって聞いて」

と答えると、

「お名前は」

と聞かれ、

「獅子谷です」

と答えた。すると、

「えっ、社長のお子さん?」

と聞き返しながら、受付嬢にはとたんに緊張が走った。佑介が、

「いいえ、パパは、工場で働いているって言ってたから」

と言ったところで、吉川がやってきた。吉川は二人に、

「二人とも、よく来たね。おじさんが、会社を案内してあげるね」

と話しかけ、受付嬢には、

「うちの社員のお子さんなんだよ。ちょっと事情があってね」

と言い、思わせぶりのウィンクをして、二人を社内に連れて行った。受付嬢たちは、

「名前は社長と同じだから、社長のお子さんじゃないとしても、親戚か何かかしら」

と言い、対応に粗相がなかったか、心配していた。

「今日はどうもありがとうございます」

と佑介が言うと、吉川は、

「お父さんからは聞いているよ。恩田選手や、他の選手たちのユニフォームが見たいんだって。うちの会社は、チームのスポンサーだから、全員のユニフォームがあるよ。ついでに、会社も案内してあげるね」

と答えた。