四
吉川が会社で待っていると、佑介と真理の二人が会社にやってきた。
「ずいぶんとでっかい会社だなあ。パパはどこにいるんだろう」
と佑介が言うと、真理は、
「工場って言ってたから、ここにはいないはずよ」
と答えた。二人が受付に行くと、受付嬢に、
「どちらに行かれますか」
と聞かれ、佑介が
「恩田選手のユニフォームを見に」
と言い、真理がすぐに
「いえ、吉川部長さんに会いにきました」
と言い直した。さすが、真理の方がそつがない。
「吉川部長の親戚か、お知り合いの方?」
と聞かれ、佑介は、
「いいえ、僕たちのパパがここの会社で働いてて、それで恩田選手のユニフォームが見られるからって聞いて」
と答えると、
「お名前は」
と聞かれ、
「獅子谷です」
と答えた。すると、
「えっ、社長のお子さん?」
と聞き返しながら、受付嬢にはとたんに緊張が走った。佑介が、
「いいえ、パパは、工場で働いているって言ってたから」
と言ったところで、吉川がやってきた。吉川は二人に、
「二人とも、よく来たね。おじさんが、会社を案内してあげるね」
と話しかけ、受付嬢には、
「うちの社員のお子さんなんだよ。ちょっと事情があってね」
と言い、思わせぶりのウィンクをして、二人を社内に連れて行った。受付嬢たちは、
「名前は社長と同じだから、社長のお子さんじゃないとしても、親戚か何かかしら」
と言い、対応に粗相がなかったか、心配していた。
「今日はどうもありがとうございます」
と佑介が言うと、吉川は、
「お父さんからは聞いているよ。恩田選手や、他の選手たちのユニフォームが見たいんだって。うちの会社は、チームのスポンサーだから、全員のユニフォームがあるよ。ついでに、会社も案内してあげるね」
と答えた。