次の日は朝に目が覚めたけれど、手術後は体を動かせない。ほとんど寝て過ごしている私のために、看護師さんは枕元でCDをかけてくれた。その次の日からご飯が食べられるようになって、朝になるのが楽しみになった。おぼんの上は、おかゆや煮物、嚙まなくても食べやすそうなもので彩られている。

水分の上限も少しだけ増えた。喉が渇いた時は、氷を口に入れる。飲み物が水だけの生活に飽きてしまった私のために、看護師さんがポカリ氷というものを作ってくれた。ICU用の冷凍庫に作られた「姫花ちゃんコーナー」にある特別なポカリ氷は、口に入れるとポカリスエットを飲んだ気分になれる。1つで8cc、水分制限には最高の節約方法だ。

1月の末。手術からは、10日以上がたった。手術後に繋がっていた管が抜けると、自分でトイレができるようになる。けれど、最初は足に力が入らなかった。何日か歩かないだけで、体は立ち方を忘れてしまうらしい。4人部屋に戻ると、病棟での日常生活はほとんど元に戻って、水分制限は1リットルを超えた。

マイブームは、プレイルームに遊びに行くこと。ナースステーションの前にあるプレイルームにはキーボードがあって、小さい音でなら弾くことができる。レッスンで習った曲や、知っている童謡を弾くと、小さい子たちが楽しそうに歌ってくれた。

少しずつ退院の話が具体的になってきた日、熱が出た。最初は微熱を表していた体温計が、どんどん数字を大きく見せていく。怖くなった。体温計の使い方が間違っているのかもしれない。けれど、右腕に挟んでも左腕に挟んでも、座っていても横になっても、求めているような数字は表示されない。恐れていた何かが、近づいてきている気がした。

「ごめんね、もう一度手術をします」

朝起きると、カーテンで仕切られた病室に先生が入ってきて、そう告げられた。

「これからすぐに手術だから朝ご飯は食べられない」

と言われて、ストレッチャーのお迎えが来るまで、母としばらく泣いた。何がいけなかったのだろう。どこに戻れば、今日の日を回避できるのだろう。悔しさと悲しさが、濁るように混ざる。

再手術は2時間で終わったらしいけれど、目が覚めるともう夜になっていた。すっきりしていた体が、またたくさんの管に繋がれている。私の気持ちを心配してくれた主治医の先生の配慮で、次の日には母の付き添い入院が始まって、個室に移ることができた。個室では、機械音の少ない、穏やかな日々が流れる。