ある日、まだ夕食の用意には時間が早かったので、子どものアルバムの整理をしていると、
「そろそろごはんの用意をして」
と貫一。澄子に言うならともかく、よくもぬけぬけと言えるものだと結里亜は思った。
朝、樹里を幼稚園に送った帰りに、彩奈を近くの公園でゆっくり遊ばせたい時もある。だが、いつも帰る時間を気にした。早く帰らないと文句を言われるからだ。三食を必ず作るとなると泊まりでどこかに行くことはもちろん、息抜きに友人と食事に行くこともままならなかった。実家に用事で行っても、帰る時間ばかりが気になった。
「もう、帰らなきゃ」
と結里亜が口癖のように言うと
「まだ来て十分しか経っていないのにね。来ても帰る、帰るとしか言わないんだから」
と忍が言う。
「ごめんね、最近は十時と三時にはお茶も入れているからさ。ちょっと忙しくて」
と言う結里亜に、
「わかった、じゃあさっさと帰っていきなさい」
と言って飲み物やお菓子を持たせてくれる。結里亜は、家にいてもどこかに出かけても、いつも時間に追われている感覚から解放されなかった。
この日もそうだった。三十分ほど離れたところに住む結里亜のすぐ下の妹、結城弘香の家に子ども連れで遊びに行った時のことだ。弘香の子どもも連れて、家から五分のところにある公園に行き、遊具で遊ばせた。その後、家でままごと遊びや人形で遊んだ。あっという間に時間は過ぎていた。
「たまには夕食を食べていかない?」
と、弘香の義理の母親、文江に言われ、一度は断ったが、
「私も嫁に来て苦労したから結里ちゃんが大変なのはわかるよ。だけど、たまには息抜きをしないとね」
と言い、
「私がお義母さんに電話しようか」
と言って電話をかけてくれた。電話口の澄子は穏やかな口調だったようだが、家に帰って玄関を入ると、そこには言わなければ気が済まないとばかりの顔で仁王立ちの澄子。
「なんで人に電話をかけさせるの?」
と澄子は冷たく言う。その顔は鬼のように見えた。結局、ごはんの用意は『結里亜の仕事』なのだ。