【前回の記事を読む】「破産か夜逃げか、時には自殺も考えるように」…アルコールの恐怖
第一章
自己破産のことも少しネットで調べたくらいでほとんど無知だった私は、内容は半分ほどしか理解できませんでしたが、「迷惑をかけたくないとはふざけるな、この期に及んで自分だけカッコつけようと思うな」といって頂いたように感じました。
私は、店に帰って「夜逃げしよう」と決意しました。夜逃げ先はもちろん元妻と息子が住む愛媛県。許してはくれないと思いますが、息子には会わせてくれるだろう。全てを忘れて息子を抱きしめたい……。
相変わらずその時もまた酒を飲みながら、五歳の息子の顔を思い浮かべていました。破産手続きについてはその後考えればいい、とにかく夜逃げするのだと。
少し酒が切れると、愛媛に帰って何ていわれるだろうと不安になってきました。何より、夜逃げした後の神奈川で、今までお世話になった人たちの反応はどうだろうと怖くなりました。忘れる為にまたどんどん深酒をし、時には自殺など想像したりしましたが、もちろんそんな勇気などあるはずもなく、周囲にはわからないように、ただ毎日大量の酒を飲んで過ごしていました。そして、夜逃げの日を決めたのでした。
しかし私は、所詮アルコール依存症の人間でした。
夜逃げを次の週に控えたある日、その日も数件の知り合いの居酒屋やバーを飲み歩き、いつものように気持ち良く酔っ払っていました。そして記憶はありませんが「俺は今月、夜逃げするんだ。もう知るかバカヤロー」などと大声で騒いでいたらしいのです。
翌日、そのことを一緒に飲んだ数人から聞かされました。なんとも情けない話です。そして、このことがこのあと、とんでもないことに繋がっていくのです。
かくして私は、夜逃げを計画し、実行することになったのです。私は四二歳になっていました……。