研修医

昭和57年4月

次の第2内科で、梅澤は、多発性筋炎・皮膚筋炎の患者を担当した。50歳台の女性で、つい一月前まで、元気に病院内を歩いていた。

梅澤は、診察の度にたわいもない会話をして長い時間を患者と過ごしていた。患者も梅澤に心を許して、病気の心配以外にも個人的な悩みなども相談していた。2週間ほど前から、患者は会話の途中に乾いた咳をするようになった。この1週間は、急激に息苦しさを訴えるようになっていた。

梅澤は、病室を訪れる度に聴診器で肺の音を聞いた。初めの頃はかすかな雑音であったが、日増しにバリバリと血圧計のマンシェットを剥がすような音が強くなっていた。当時はCT断層撮影装置が日常的には使えずに、梅澤自身がポータブル撮影機を病室に運んで胸のレントゲン写真をとった。かすかな白い陰影が、日増しに両方の肺に広がっていった。

膠原病は、一般的に間質性肺炎を合併しやすい。最も頻度の高いのは強皮症である。しかし、強皮症では、その進行は割とゆっくりである。一旦、固くなった肺は元には戻らないが、酸素吸入が必要になるほど重症化する例は少ない。

蜂の巣のような重症の間質性肺炎になるのは10年も20年も後のことである。全身性エリテマトーデスやシェーグレン症候群でも間質性肺炎が見られるが、強皮症ほど頻度は高くなく、早期に適切な治療をすれば治すことも出来る。

しかし、多発性筋炎・皮膚筋炎に合併する間質性肺炎は急速に進行することが知られている。特に、ハーマン・リッチ型と呼ばれる急速型は短期間に重症化して死亡率が高いとされていた。