吉川の驚きは尋常ではない。こんな大きな会社の社長であることを言わないなんて、常識では考えられない。SSEの社長なんていったら、子供だって喜ぶだろうし、自分だって気持ちいいはずじゃないか。全く理解できないのである。
「もちろん、子供たちも、私がこの会社で働いてることは知ってるけど、普通のサラリーマンっていうことになってるんだ。もし、父親が社長って知って、子供がそんなことを威張って誰かに話したり、会社の人たちに言ったりしたら、みんなに迷惑かけるだろ。まだ、子供だから、つい言っちゃうってこともあるかもしれないし」
「だからって、そんなこと、隠せるんですか。毎朝、車で出社してるだけでも、分かるんじゃないんですか」
「そこらへんは、うまくやってるんだ。だから、君にも、うまくやってほしい。あ、名前は、佑介、小学五年、真理、小学二年だからね」
「はあ、何とか、頑張ります」とは言ったものの、吉川は、全く、理解できないままに、社長の子供たちの世話を引き受けることになったのである。