私がこのクラスで絵本を読むのは6冊目でした。もうすぐ学年末考査。それが終わるとクラス替えをして、いよいよ進路選択の3年生に進級していく……そんな彼らに、私はこの絵本を通して“人生には勇気を持って踏み出さなくてはいけない瞬間がある! 未知のことに勇気を持って踏み出して行って欲しい……”というメッセージを伝えたのです。
これだけなら、小学生にも伝えられるので、私は高校生用に更に2つメッセージを追加しました。実際には、読んだ日に配布したクラス通信でのフォローだったので、その文章を抜粋して紹介します。
さて、この本は実は私にもう1つメッセージを伝えてくれます。
『失敗が許されるのは最初だけ!』
みいちゃんは、お母さんの注意事項の1つだった「おつりをわすれないこと」を忘れてしまいます。初めての仕事というのは、実際にはこんなものです。「ここに気を付けなさい」と言われたことを、えてして失敗してしまうものです。でも、最初はそれが許されます。
絵本でみいちゃんは、おつりを受け取らずに店を後にしてしまいます。そして、追い掛けて来た店のおばさんに呼び止められて、おつりを受け取ります。このシーンをもとに高校生に、“新しいことへのチャレンジは、完璧にできることなんてマレなんだ! むしろ誰もが失敗して、それを通して成長していくんだよ!”と伝えたのです。
次にもう1つ、ラストシーンの1枚の絵について……絵本の最後には坂の下まで赤ちゃんを抱いたお母さんが、心配して迎えに来ています。結局お母さんは自分で買いに行った方がよっぽど確実なのです。しかし、あえてみいちゃんに頼むのは一人前の人に育てるためであり、手間が掛かることを承知で頼んでいるのです。
そのことに気付かずに、いつまでもお店の人やお母さんの世話になり続けていたら、みいちゃんは大人になれないのです。真弓さんが放課後、君たちが帰った30分後ぐらいに、廊下をモップ掛けしてみえることを知っていますか? 残念ながら、今の我々の掃除は、ほこりを舞い上げているだけで、そのほこりが落ちて来る頃を見計らってモップを掛けてみえるのです。これではみいちゃんのおつかいと一緒では?
真弓さんがモップ掛けをしないで済むような、本当にきれいになる掃除……私たちの課題ですね。真弓さんという方は、この学校の用務員のおじさんです。クラブ活動が盛んだったこの学校は、放課後の掃除を勢いで片付けて、それぞれのクラブ活動に走っていく……という元気な学校でした。明るく元気な生徒たちに、“実は君たちも今、みいちゃんのようにフォローしてもらっているんだよ!”“そこを何とかしていかないか? 大人になるために……”と問いかけたのでした。
その後、掃除が丁寧になったことは言うまでもありません。掃除の時間に、「先生、私もあの本持ってる!」とか、「先生が読んでくれた晩にテレビで偶然あの本のことやってたよ!」なんて教えてくれた生徒もいました。そして3月、私の転勤が決まってしまったのです。つまり、彼らの卒業を見送れずに別れがやってきたのです。
あの日、簿記の授業をせずに『はじめてのおつかい』を読んでおいて、心から良かったと思ったものです。