赤ちゃんと過ごす二日目
おれはあと数時間でたぶん別れる、でも悲しい気持ちは不思議となかった。たった二日前に会ったばかりの名前しか知らない子に対して、おれがこんな気持ちを感じるなんて正直自分でも驚いている。
午後はこのオモチャで遊んでやりながらのんびり過ごそうと考えていた。家に帰ると華ちゃんはもう起きていた。二人は三時を過ぎた頃、後ろ髪を引かれながら帰って行った。おれは少し早かったけど華ちゃんと風呂に入った。ソフビの人形を買ったのは、このためでもあったのだ。いつもよりかなりぬるめの風呂で華ちゃんと人形遊びをした。華ちゃんはまだそんなに夢中で遊ばない、女の子だからだろうか? 遊んでいるうちに気づいたことがあった。
華ちゃんは二人を見るとき、普段あまり笑っていない。遊んでもらったりしたときだけ笑っていた。でもおれには違っていた。おれを見るときはいつも笑っていた。初めておれを見たときから安心しきったような顔で笑っていた。ろくに泣かないのも不思議だった。まだ小さいからなんだろうか? そもそも華ちゃんが家にいることじたい不思議なことなんだから、色々細かいことはどうでもよいと思い直して風呂を出た。
風呂あがりの華ちゃんにはまたおれとそろいのパジャマを着せた。このままミルクと離乳食をあげたあと、買ってやった服を着せて迎えを待つからだ。パジャマに着替えた華ちゃんにジュースを飲ませて少しの間寝かせた。
その間におれは華ちゃんの帰り支度をはじめた。華ちゃんが持ってきた服や荷物をバッグに入れてやった。寝かされていたバスケットの布団をベランダでたたこうと逆さまにした、そのときだった。手紙が入っていた。華ちゃんの親からおれに宛てた手紙だった。すぐ読むのはやめた。今さら、預けた理由や誰が親なのか知る必要もなかったし、今は華ちゃんを返すための準備をしたかったからだ。
バスケットを整え、全ての準備を済ませて落ち着いた頃、華ちゃんが目覚めた。起きるとすぐに腹ばいで手足をバタバタさせる遊びをしていたので、ウサギのソフビ人形を手元に置いてやると風呂のときとは大違いでキャッキャッと声をあげて喜び笑いながら、夢中で遊んでくれた。口にあて噛みついたりしても大丈夫な素材のオモチャで、今までで一番はしゃぐ華ちゃんの可愛い姿が見られた。
夕飯どきだったけど今日はおれが先に飯を済ませ華ちゃんにゆっくり離乳食をあげた。もうすっかり慣れて美味しそうに一生懸命食べてくれた。ミルクのときなどは、まるで母親のように見つめ合い笑い合いながら飲ませてあげた。そしてタテ抱きにしてゲップもさせた。今日は少しくらい時間がかかってもよかった。逆に一秒でも長くゲップが出ないでほしかったが……いつもと同じくあっという間にゲップが出た。今日はもう寝かさない。このまま買ってやった服に着替えさせて迎えを待つことに決めていた。
ようやく手紙を読む気になった。手紙にはこう書かれていた。