【前回の記事を読む】看護学生が助産師を志した理由。我が子を虐待してしまった母親の悲痛な境遇とは…

第一章 そして母になる

だけどぽんこつ

ようやく私も子育ての不安や葛藤を理解し、経験者の助言らしきことも新米ママたちに言えるようになった。特に、DVや離婚後の子育て、発達障害児を抱える方に伝えられることがある。

臨床助産師から大学へ進学し、結婚、流産、離婚、再婚、そして出産し、子育てしながら博士論文を書いて教育学博士号を取得した。自分で書いていても具合悪くなるほど忙しい日々だった。それから、助産師教員として働き、子育て支援の要である保育士と産科医療の連携が必要と感じて、今度は保育士養成に乗り出した矢先の退職、そして失業。今の私は、助産師らしい活動は何もできていない。

二度の腰痛の手術の果て脊柱管狭窄(きょうさく)症、更年期症状で手指が腫れていてばね指でじゃんけんのグーもできない。目も老眼、痔もひどい。習った整体と「トコちゃんベルト」(有限会社青葉のマタニティケア用品)で、なんとか日常生活を送れているが体はガタつき始めている。

携帯の待ち受け画面の、大好きなアイドルグループのメンバーの「M・J」の笑顔に癒され、なんとかホルモンを保っている。そして、そのアイドルグループのファンだというだけで、学生に親近感を持たれて、一緒に盛り上がれるのが嬉しい。

次男は「あかねこ」だった

三十三歳で長男を出産した後、いわゆる二人目不妊で、第二子がなかなか授からず、妊娠しても流産を繰り返した。三十八歳からは不妊治療に通院する日々の中、人工授精も何度も何度も試みたが妊娠に至らなかった。四十二歳、もう体外受精に踏み切る体力も気力もなく、妊娠を諦めようと思い、治療をやめた一か月後のまさかの自然妊娠だった。妊娠反応が陽性になった時の喜びは例えようがなく、とにかく嬉しかった。不妊治療の末ようやく授かった子だ。ただただ可愛い。

ぼく、「あかねこ」がいい!

次男が五歳の頃、『わたしはあかねこ』(サトシン作・西村敏雄絵、文渓堂、2011年)という不思議な絵本を読んだ。黒ねこと白ねこの間に、「あかねこ」が生まれる。兄弟ねこは、みんな黒か白、白黒のぶち。そこに突如、あかねこ。生物学的には遺伝の法則で、同じ種でも異なる色や特徴のものをかけ合わせていくと、必ず親とは全く違う特質を持った特別変異種が現れるのは珍しいことではない、一般的な学説だ。たくさんの子どもが生まれる中、このような変異種が生まれることは確率的に絶対ある。

私はこの絵本について、次男にどう思う? と聞いたら、

「ぼく、あかねこがいい!」

と元気に答えた。