すぐにゴールデンウイークに入り、久々に元村さんから連絡をもらって、健太君と三人で会うことができた。よく行っていた居酒屋で開店時間の夜六時から飲んだ。相変わらずつけまつ毛にカラーコンタクトを入れ綺麗に髪を巻いている元村さんと、白のロングTシャツにジーパン姿で肌が黒い健太君。健太君の姿を見て
「一人でオセロじゃん!」
と言って、元村さんと二人で爆笑した。私は久しぶりに頬が緩みっぱなしだった。
実は元村さんには新年度が始まってすぐの頃に彼氏ができていて、その日も彼が自宅で待っているからと、一次会後に帰ってしまった。私は一緒に「BARhome」に顔を出そうと思っていたのだが、彼女が幸せならそれでいいかと、母親のような思いで後ろ姿を見送った。
元村さんがいなくなると急にバランスが崩れ、健太君と何を話したらいいのか分からなくなる。――そういえば、二人きりで話すのは、初めてだな。帰路が同じ方面なので、とりあえず、一緒に歩き始めた。
連休初日で、人通りは普段より少し多かった。家族連れが多いのか、子供のキャッキャという楽しげな声も響いていた。私が黙ったまま歩いていると、彼が口火を切ってくれた。
「真希先生。久しぶりに会えて、俺、嬉しいっす」
はにかんだ笑顔で頭をかきながら言う。彼の一言がきっかけで、私もいつも通りに話すことができた。
「私もだよぉ。三人でつるむの、私、本当に嬉しいんだから。久々に元気もらえたわぁ」
「俺も。でも、もっちゃんに彼氏ができたから、今まで通りってわけにはいかないですね」
「嬉しいことだけどねぇ」
その日は昼から曇りで雨が降りそうな気配だった。途中パラパラと雨が落ちてきたが、二人とも傘を持っておらず
「よし、走るよ!」
と私が走り出すと、足の速い彼が手を取って先導してくれた。幸い激しい雨にはならなかったが、久々に走ったせいで自宅マンションに着いた頃には軽く息が切れ、一緒にエントランスの中で少し息を整えた。ようやく呼吸が落ち着き、じゃあ、とエレベータへ向かおうとした時、彼に引き留められ、告白された。自分でも何となく彼に好意を持たれていることには気づいていたから、驚かなかった。それに、彼の気持ちは素直に嬉しかった。彼のことは、どちらかと言わなくても好きだったし、人となりも素敵な人だと思っていたし。
けれど、私の”好き”は、まだ友人の域を出ていない気がしたのだ。適当な返事はしたくなかったから、その日は告白してくれたことへのお礼だけを述べて返事は待ってもらった。そして彼は
「ゆっくり考えてくれればいいから!」
と手を振り走って帰っていった。