第二章 初めて抱く不思議な気持ち
一ヶ月ほどして、瑠美から連絡があった。瑠美は涙ながらに謝ってきた。どうでも良かった、瑠美が男といようと、未成年で酒を飲もうと、なんの感情も湧かなかった。
俺は仕事に没頭して、瑠美との距離を取った。俺の中で、瑠美の存在が消えようとしていた。いや、俺に反抗する瑠美の存在を消したかった。
この時俺の中で何が起きていたのか、素直な可愛らしい瑠美の姿だけが脳裏に残っている。俺に反抗した瑠美の記憶が消えた。冷たい俺の態度に瑠美は終わりを悟った。瑠美から別れを告げられ、俺達は別れた。
それからの俺は抜け殻だった。付き合いは女の方から言い寄られて始まる。嫌いじゃなければ付き合う感じだ。自分から好きになったことはない。だから、沙優に対して抱いた感情は、自分で処理しきれないでいる。
俺が沙優に抱いている感情が愛してるという感情なのか。愛しているという感情はとうの昔に忘れていた。
俺は深夜零時を回ってから帰宅した。しかし沙優の姿が見当たらない。テーブルの上には「もし良かったら夜食に食べてください」と、メモと一緒にライ麦パンのサンドイッチが置いてあった。
まずは沙優を探した。沙優は自分の部屋で毛布にくるまって寝ていた。ベッドで寝ていろって言ったのに……
俺は沙優をベッドに運んだ。しばらくして俺もベッドに入った。すると、沙優が俺の方に寝返りをして、俺の胸元に顔を埋めた。俺は女と寄り添って寝たことがない。俺としたことが、沙優が寄り添ってきた時、心臓がバクバクと音を立てた。
沙優を抱いた夜が脳裏を掠める。沙優の寝顔は可愛い。俺は思わず沙優を抱きしめた。ここでまた沙優を抱いてしまったら、俺は俺でなくなる。俺は朝まで一睡も出来なかった。
朝、私は目が覚めると身動きが取れなかった。ギュッと抱きしめられている。南條さんの顔が近くにあった。どういうことなの? 私は彼の顔をマジマジと見つめた。長いまつげ、整った顔立ち、めっちゃイケメンだ。すると彼が目を覚ました。
「おはよう、沙優」
彼が腕の力を緩めた瞬間、私はビックリしてベッドから落ちそうになった。
「危ない」
彼は私の手を掴み、自分の方へ引き寄せた。さらに顔が接近して、顔が真っ赤になってしまった。
「沙優は可愛いな」
私は首を大きく横に振った。
「南條さん、私本気にしますよ」
「俺は本気だ」
「だって南條さんには彼女がいるじゃないですか」
彼は「ああ、そうだな」と俯いた。彼の表情から彼女が大好きなんだなって感じた。
「よし、起きるか」
「はい」
私は元気よく返事をした。でも心の中はモヤモヤでいっぱいで、南條さんの彼女が羨ましかった。南條さんに愛されているんだなと……