仕事が立て込んでばたばたと業務をこなしているうちに、数日が過ぎていた。今日も残業を終え、暗くなった空を見上げながら伸びをする。残暑もようやく和らいで、時折冬の到来を仄めかすような涼しげな風が吹くこの季節が、私は一番好きだ。

少し遠回りをして、散歩しながら帰路につく途中で携帯が鳴った。確認すると、相手はなんとショウタだった。

「明日の夜、空いていませんか?よければご飯でも。」

という誘いだった。画面に光る彼の名前に胸がときめいたのは確かだ。でも、何だろう、この複雑な気持ち。食事に誘ってもらったのはもちろん嬉しい。だけど、この前地雷を踏んだことを思い出すと、そのことで何か言うつもりなのではないかと、少なくとも恋仲に発展するためのドキドキの一歩、という状況ではなさそうだ。とはいえ気になる人にまた会える機会を逃すわけにはいかない。私は胸の高鳴りを抑えつつ返事をしたのだった。

次の週末、リサと私は空港にいた。日が完全に昇りきらない早朝だというのに、久しぶりの遠出にどうしてもテンションは上がってしまう。

「旅行楽しみ~‼話したいこともたくさんあるし、おいしいものもいっぱい食べようね!」

「ほんとに!スミレがショウタさんとうまくいってるなんて……詳しく聞かない手はないわ」

腰に手を当ててうんうんと頷くリサに、私も言い返す。

「うまくいってるかどうかはわからないけど……。リサも朝木さんと仲よさそうでよかった!話、たっぷり聞かせてもらうからね」

「もちろん。なんでも聞いて!」

リサも私に負けず劣らずハイテンションだ。薄手のセーターにスキニージーンズというラフな格好ではあるが、スタイルのよさと見た目の華やかさが、そのルックスをぐっと底上げしている。目的地の出雲空港には出雲縁結び空港という愛称がついているらしい。なんとも世の女子たちが好きそうな愛称である。

「この空港を使うだけでご利益ある気がするー」

と盛り上がった私たちも御多分には漏れないが、つくづく女というのは占いやら風水やらが好きだなあと、自分のことを棚に上げて思う。

無事に出雲縁結び空港に着いた私たちは、手配していたレンタカーに乗り込んだ。最初の目的地は出雲市の北西部にある、日御影神社という場所だ。歩きや自転車ではとてもたどり着けないような山道を抜けたところに海を望める落ち着いた雰囲気の神社がある。

人の出入りはあまり激しくなく心ゆくまで参拝ができる素敵な場所、というのが私の第一印象だ。周りを少し散策すると景色が見事な灯台もある。その辺り一帯をまとめて、何か特別な空気感をまとったような、少し浮き世離れした空間に迷い込んだような、でもどこか安らぐようなそんな感覚を覚える。

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