プロローグ 

「ではそんな福山市を全国の人に知ってもらうには、どうすればいいのでしょうか? 市の方では鞆の浦を宣伝して観光の目玉にとのことですが、具体的にはどうしましょう?」

「やはり宣伝ですね。全国紙に広告を載せ、テレビやネットなどでも大々的に紹介するのです」

「大々的にするとなれば、お金がかかりますねえ」

「それとクイズなど出して、正解者を無料で招待するのはどうでしょうか?」

「乗ってきましたね。わんさかお金が要ります」

隣の男性は、今までの失態を補おうと饒舌(じょうぜつ)になって続けた。心なしか目が血走っている。

「はい、でも損して得取れと言うじゃないですか? とにかく福山に興味をもってもらうことです」

「いいこと言うじゃないですか。でもやはりお金が」

Sは執拗にお金のことが気になるようだ。

「そうだ、有名な歌手を呼んで音楽祭みたいなものを企画するのもいい。それを根付かせるのです」

「つま恋フェスティバルのような?」

「そうです。何万人も集まる。観光とタイアップすればなおいい」

男性は自分の考えに酔ったふうに、首を上下させ頬を緩ませた。

「壮大なプランですねえ。本気で言っています? 何万人も入る場所が鞆の浦にあります? 鞆の浦でなくても福山市にそのような場所がありますか?」

Sは呆れたというように、唇を半開きにして男性を眺めた。すると彼は目を天井に向け、無言で右手に持ったペンを指先で回し始めた。

「ということで、次のお手紙にしましょう」

Sは話題を変えて、次に紹介するファックスを男性から受け取った。幸太はこのやり取りが面白かったので、まだ観ていたかったが、夜もずいぶん更けてきたためテレビを切った。

「場所ならあるけどな」と呟いて寝室へ向かった。