何となく一人で煙草が吸いたくなり、コートを羽織って外へ出た。外気の冷たさに身震いするが、逆に店内のこもった空気から解放されて、気持ちよかった。ドアを出て右手に、三人掛けの木製ベンチとステンレス製の灰皿が設置してある。ベンチの背もたれに体を預けて、煙草に火をつけ、ゆっくり吸い込む。澄んだ夜空に吐き出す。イルミネーションの光で、星はほとんど見えなかった。
ふとドアの閉まる音がして店の出入り口へ目だけ向けると、長身の女性が細い体をコートにくるみ、一人で出てきたところだった。誰が見ても美人だと言うであろう整った顔立ちで、黒髪のロングヘアもキラキラと輝いている。モデルか芸能人かと、ひそかに期待した。カバンを持っていなかったから、
「一服ですかー? 」
と少し声を張って、手招きした。美人は微笑んで頷き、ヒールを鳴らしながら私の方へ歩いてくる。
「そうなんです。周りが吸わないから、店がオッケーでも吸いにくくって」
「同じくー。肩身狭いですよねぇ。横、よかったら、どうぞ」
特に汚れてはいなかったが、ベンチをサッと手で払い、手を広げる。美人が軽く会釈して座り、長い足を組む。私はジーパンに厚いタイツまで履いていたが、彼女の薄いタイツしか履いていない膝下を見ているだけで寒さが増した。
その時、ヒューっと風が吹いて、枯れ葉がカラカラカラ……とコンクリート上で転がる。思わず、自分が座布団代わりに敷いていたブランケットを彼女の太腿から膝のあたりに掛けた。
「温めておきましたぁ、なんちゃって。お姉さん寒そうなんだもん。お尻に敷いていたやつだから、嫌じゃなかったら使ってくださぁい」
そう言って私がおどけると、美人は目をパチクリさせて口に手をやり、私をじっと見つめていた。二重の大きな瞳と目が合って、何となく恥ずかしくなる。
「あ、やっぱり嫌ですよねぇ。ごめんね、お姉さん」
そそくさとブランケットを引き上げようとすると、彼女が私の手を止める。
「違うんです。優しいなぁって思ってたら、お尻であっためたっていうくだりに妙にウケちゃって、面食らったというか……ありがとう」
私の手を掴んだままだから、私が
「あのぉ、手……」
と言うと、彼女は顔を赤くしてパッと手を離し、思い出したように煙草をコートのポケットから取り出し火をつけた。――ラッキーストライク。結構キツいの吸ってるんだな。