僕が一番欲しかったもの
「俺は20年間一度も母さんのことを恨んだこともないし、責めてもいない。だけど、これだけは聞きたかった……俺のこと愛していたの」
と母に問いかけました。僕は小さい頃から、この「愛」についてずっと聞きたかったのです。もし愛していたのなら、一度でも会いに来て欲しかったし、会えないような理由があったとしても、手紙でも何でもいいから、連絡して欲しかった。もしも愛されていなかったとしても、僕は全てを受け入れ、それでも母を愛そうと決めて向き合うことにしました。
母は答えます。
「ごめんね。母さんは昔に精神病を患って、空の大好きなお父さんをたくさん傷つけていた。だから、こんなお母さんを空は恨んでるんじゃないか、こんなお母さんに会っても、空が傷ついてしまうのではないかと思っていたの。だけど、空がいつか会いたい、こんなお母さんでも空がいつか会いたいって言ってくれた時、人生史上一番元気なお母さんで会うことを決めて今まで病気と闘っていたんだ。だから20年間一度も空のことを忘れたことなんてない」
「ずっと愛していたし、今も愛しているよ」
母はそう言ってくれました。
この言葉を聞いて、僕は生まれて初めて、体全身が何か温かいもので満たされる。そんな経験をしました。小さい頃から僕は、何不自由ない人生を送っていましたが、なぜか心が満たされることがない時間が続いていました。だから、幸せとは何か。自分の心が満たされる方法の答えをずっと探していたのです。しかし、この経験でわかったことがあります。僕が人生で一番欲しかったものは〝大切な人から愛されていたのか〟。欲しかったのはその答えでした。