ハナショウブ

♪『ENDLESS RAIN』(X JAPAN)

東京都葛飾区の堀切菖蒲園で花菖蒲が見ごろを迎えていると、数日前に読売新聞が写真を添えて報じた。

市川市で暮らした二十代後半、京成電鉄の堀切菖蒲園駅(上野駅から東に六つ目)近くの英語教室に毎週通って、一日に三コマの小学生英語クラスを担当した。授業後は疲れ果て、どこかに菖蒲園があるのだろうと思いつつ、足を運ぶことはなかった。

別の曜日に、綾瀬と金町の教室でも英語講師をしていて、亀戸等にも代講で出掛け、一週間に150人以上の賑やかな小中学生と過ごし、張り合いのある日々だったが、あの頃はいつも頭がガンガンしていた。

当時の生徒達がどんな大人になったのかと思いを馳せて菖蒲園の花を見て歩けば、案外、中年の働き盛りになった、かつての生徒の誰かとすれ違ったり、ベンチで隣り合って座っていることもあり得る。

六月初めの走り梅雨に遭って、堀切菖蒲園駅傍の店で買ったオレンジ色の傘は、今でも下駄箱の隅にある。大きくて重く、使うことはまずないが、捨てることができない。

雨の季節のメロディアスな曲で、真っ先に浮かび、よく口ずさむのは、X JAPANの『エンドレス・レイン』だ。この歌がヒットしたのは、市川から習志野に移り住んで、何年も経ってからのこと。ピアノ演奏やボーカルの高音が魅力の、当時はビジュアル系のバンドだった彼らの初期の忘れ難い楽曲である。今では世界中にファンも多いと聞く。

アヤメとカキツバタとハナショウブは似ている。外側の花びらの中央に網目の模様があるのがアヤメで、白い眼のような形の模様があればカキツバタで、ハナショウブは黄色い眼のような模様になる。「いずれアヤメかカキツバタ」というフレーズは、甲乙つけがたい美しいものの例えに用いられる。

江戸時代に尾形光琳が描いた金色屏風の花はカキツバタで、琳派を確立した酒井抱一が描写した初夏の水辺の花も、藍色のカキツバタだった。では、花札の五月の植物は何だろう。ハナショウブの可能性もある。

今日の読売新聞の千葉版に、高貴な紫と、清々しい白との二種類の花菖蒲の写真が載った。大きな花だ。近所の公園だから、オレンジ色の折りたたみ傘持参で、マスクを着用して、菖蒲狩りに出掛けてみよう。