己の来た道、行く道、今日の道 平成二十四年十二月七日掲載
先日の三山春秋の「子供叱るな来た道じゃ、老人笑うな行く道じゃ」という言葉が、今は亡き友を思い出させました。物心がついたときには遊んでいた、その友の家によく遊びに行きました。
トイレを借りて入ると、広告の裏に「子供を叱るな己の来た道、年寄りを嫌うな己の行く道」と書いて扉に貼ってありました。マジックで書かれたその字は、早くに亡くなった彼の母の字でした。
後に「子供泣かすな来た道だもの、年寄り笑うな行く道だもの」というふうに、微妙に変化した類似の言葉が何百通りもあることを知りました。作者は不明ですが、浄土宗の信徒という説や、広めたのは永六輔さんだとも言われています。
もとは「子供叱るな来た道だもの、年寄り笑うな行く道だもの、来た道行く道二人旅、これから通る今日の道、通り直しのできぬ道」のようです。
私の母が亡くなって三年。母との別れがいつかは来ると思っていましたが、本当に来るとは思いませんでした。己の来た道と思えば幼児の虐待はなくなり、己の行く道と思えば、年老いた母に暴言をはかなくてすんだかもしれません。
天国の父、母、そして友よ、通り直しのできぬ今日の道をどうか照らしてください。
* 永六輔さんのベストセラー『大往生』に記述を見つけました。無二の親友であった友の家に、度々遊びに行きました。早くに両親を病気で亡くし、独り身だった彼の心の中に、いったい何があったのか詳しくは分かりません。
間違った日本語は改めよう 平成二十五年十月投稿(一部改)
人にはよく勘違いや思い違いがあります。それこそ「人間だもの」あたり前です。しかし、アナウンサーには許されません。かつて紅白歌合戦の司会者が、都はるみを美空(ひばり)と言いかけて波紋を呼びました。国民的な演歌歌手のイメージが、美空と言わせたのでしょう。
先日も警視庁がオレオレ詐欺のグループを摘発したというニュースの後、台風の接近に警視庁は注意を呼びかけていますと男性アナウンサーが言い、隣であわてて女子アナが気象庁ですと訂正していました。
最近ではラジオで、貴乃花親方の理事解任のニュースの中で女子アナが貴乃花親方を「巡査部長」と言ってしまい、直後に「失礼しました、巡業部長の誤りでした」と訂正していました。
貴乃花親方はいつからお巡りさんになったのでしょうか?
ところで、誤った言葉の解釈や使い方が改められず、みんなが間違って使っているといつしか「ら抜き言葉」のように市民権を得てしまうのは納得がいきません。的は射るものなのに「的を得る」とか、「一番最初」なども普通に使われています。
文化庁の国語に関する世論調査で、「流れに棹(さお)さす」の正答率が二三・四%でした。昔は船頭が長い棹で水底を押し、舟をうまく水流に乗せる様子を「物事が思うままに進む」という意味で「流れに棹さす」という慣用句になりました。
今では「走馬灯」のように、実物を知らないので「水をさす」と混同して「流れに逆らって勢いを失わせる」という勘違いが増えたのかもしれません。教師の不祥事が続いたら突然始まった、弱い者いじめの教員免許更新制に数十億円。七年間で三百五十億円を投じた全国学力テスト。
こんな無駄遣いをするより、間違った日本語を学び直すことこそ、真の学力向上になると思います。