規則正しい住込み働きの生活が二年目を迎えたある日、茂は「だんなさん、ここで売っているもので一番儲かるものは何ですか」と聞いた。従兄は少し驚いたような顔をしたが、すぐに茂の気持ちを推し量るように「鮭の切身だよ」と言いながら満更でもなさそうな表情を浮かべた。

鮭の切り身は、木枠に数本ずつ入れられた丸ごとの鮭を、従兄が店の裏の狭い作業場で出刃包丁で加工した。まず鮭を三枚におろし、金属バット上に盛り上げた荒塩を無造作に掴み取り、シャッシャッと手のひらで魚身に擦り込み、等分の切り身にして経木を敷いたバットに並べ売り場に出す。この一連の作業は従兄にしかできないものだった。

これをやる時の従兄は二の腕をたくし上げ、一心不乱の顔つきで、まるで働く仏像のようで近寄り難かった。従兄はその都度四、五本の鮭を一気にさばいて、これを日に何度か繰り返した。

茂は時々この鮭の切身の売り台の前に立った。

「お兄ちゃん、カマに近いところから三枚ちょうだい」、「真ん中のところを五枚入れてね」、「身をほぐして使うから尾っぽの大きいところを入れてね」、客の注文は様々だったが、茂はそのたびに「ハイ」と、笑顔で応対した。

従兄夫婦は茂を見込んでいたようだ。茂の住込み働きが二回目の夏を過ぎた頃、従兄が「茂、お前なかなか見どころがあるから、このまま俺のところで働いてみないか、そのうちお前にも一軒店を持たせるから」と言った。

正直、茂は従兄の気持ちが嬉しかった。しかし、学院で勉強を続けるにつれて茂の中国に対する興味は益々膨れ上がり、卒業後は勉強した中国語を生かせる、何か中国に関係する仕事をしたい、という気持ちは日を追うごとに強くなっていった。