松岡葵と落ち葉清掃
「こんにちは〜」
のそっと岩崎が入ってきた。生徒会室に慣れないのか、もぞもぞしている。
「遠慮せずにどうぞ、座って」
優哉が椅子を勧めた。でかいんだから堂々としたらいいのに。続いて、越智と土居ががやがやと入ってきた。
「お、揃とるな。ん? またあの一年が最後か。しゃーないのぉ」
土居はゆがんだパイプ椅子を強引に広げて、どかっと座った。こいつらはちょっと遠慮したらいいのに。土居は座るや否や、天気の話でもするように一言放った。
「生徒会になっても、生活ってあんま変わらんのやな」
どきっとした。俺が優哉に聞こうとして聞けなかったこと。土居は、その事実を困っているわけでも悲しんでいるわけでもないようだった。
「『生徒会の方だわ!』て顔も名前も有名になるんかと思とったわ。漫画の読みすぎか!」
土居はがははと笑い、越智も岩崎も「そうだよ」と笑って頷いた。
優哉は「これからの活躍次第じゃないか?」なんて含みを持たせて言ったけれど、知っているくせに。この一年間、道枝中で俺たち生徒会役員がどんな存在だったか。
「ね、生徒会室って暗くない? この間は雨のせいだと思ってたんだけど」越智が天井の蛍光灯を気にする。
「電気、というより、そこの桜の木かな」
優哉が戸口と対面する窓の外を指した。その木は二階の生徒会室にちょうど届く高さで緑の葉が生い茂り、ほどよく日光を遮っていた。
「もうじき色づきますね」と岩崎が言えば、「春にはお花見もできちゃう!」と越智も浮つく。
だから生徒会は遊びじゃないっ。
「しつれいしまーす」
だらだらと細身のシルエットがパイプ椅子を引きずり出して座った。その影を越智がちょんと小突く。
「遅いよー、ともちゃん」
野間! 最後に来ておいてその態度かよ! やる気ないなら出て行ってもいいんだぞ!
俺の心の声は、優哉が学ランの裾を引っ張ることで留まった。
「なんか、生徒会室ってもっと豪華なのかと思ってた」
越智がぐるりと質素な、いやシンプルな生徒会室を見渡した。
「せやな、校長室みたいなでかい机がどんとかまえてなぁ」
土居は手を広げて机をかたどってみせる。
岩崎もうんうんと頷く。
「そうですね〜。ぼくは広い会議室みたいなところだと思っていました。それがこんな、校舎の端にひっそりあるなんて……」
俺だって本当は……いやいや、放課後の音に邪魔されない、いい場所だから。
って、どうしてこいつらは余計な話が多いんだ! 俺は会長だ。教室では存在感がなくても、ここでは俺がリーダーだ。まずはこいつらをまとめるんだ。
と、開きかけた口はまたもや邪魔をされ閉じることになった。