午前中の外来受付が終了する頃、田野さんがバタバタと私のところへやって来た。

「先生、ちょっと悪い子がきてる。先に診てください」

三歳の喘息発作。正常なら百パーセント近い血中酸素飽和度が八十八パーセントまで低下し、異常値を示すアラーム音が鳴り続けている。明らかに呼吸状態が不良で、聴診せずともゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音が聞こえた。

「田野さん、酸素して。それと、吸入ね。あ、もちろん入院だから。準備して」

ベッドで半坐位になっている子供を診察しながら、点滴などの指示をパパっと告げた。急に看護師たちが慌ただしく動き出す。子供は苦悶の表情で、会話すらままならずにぐったりしている。母親も初めてのことに少しパニック状態のようで、処置室の片隅で佇み、バタバタと動く看護師たちを不安げに見渡している。私はベッドの方にくるよう母親を促し、話しかけた。

「お母さん、僕を抱っこして座りましょうか。大丈夫だからねぇ。まず吸入しよう」

子供は、泣きながらも暴れず吸入処置を受ける。吸入が終わると若干呼吸状態が改善し、口元に酸素を当てるとモニターのアラーム音もやんだ。子供に話しかけながら彼の目線の下までしゃがみ、もう一度聴診する。三歳児は、徐々に泣きやむ。

「いつも泣くのに……先生、すごい」と母親が言った。

「いやいや、この子はお利口さんですよ。私、声がこんなだから、大体怖がられないの。年が近いと思われてるのかも。ハハハ」

母親も子供も、笑った。こういう時、持ち前のアニメ声が役に立つ。

「ちょっとー。点滴、まだ? 早くして。この子、まだしんどいんだからね」

少し状態がよくなっただけで緩んだ現場の空気に、喝を入れた。職場では、スタッフに一切の妥協を許さなかった。