ぼくのカレーライス
外の世界は混沌としていて、あいまいで、それでも人は一人では生きていけない。何かにすがる思いで物や人とつながっていたがる。ぼくもそうだった。高校のクラスメイトとのメッセージのやりとりや日々更新されるSNS、こんな浅くてもろいもの、すぐに壊れてしまうんじゃないかとこわかった。しかし、そんな世界の中でもゆるがない、大切なものをもっているぼくは強いのだ。
「そうだったんだ」
思わず口から出てしまった。
「どうしたの?」
母がぼくの顔を覗き込む。父は、「そうだそうだ」と適当な相づちを打ち、姉はさっきまで黙っていたぼくが急に喋ったものだから、不思議そうな顔をしていた。
カレーを食べ終えたぼくは二階にあがりメモ帳をとりだした。宛先、『夕焼けポスト』さんへ。というより、あの二十六歳会社員の人に届いてほしい。やっぱり心を閉ざしてしまってはいけない。ずっと変わらないカレーライスがぼくと家族の心をつないでくれた。大切な人と心と心でつながることが、生きることなのだ。もしかしたらあの能力は、大切な何かに気づいてほしい人に現れるのかもしれない。
翌朝、まだ誰も起きていないリビングでメモ帳を封筒に入れ、封をした。一年ぶりに外に出た。朝日がまぶしくて目を細める。ぼくは思わず走り出したくなった。心臓がドキドキし、胸が高鳴って、ぼくは生きていた。郵便ポストが見えると深呼吸をし、そっと封筒を入れた。来週のラジオで読まれることを祈る。
題名、"生きることはつながること"