「そうか、君がそこまで言うなら止めはしない。でも約束してほしい。必ずその夢を叶えてくれ。お店ができたら必ず飲みにいくよ」
と。なんて男前な校長だ。惚れてまうやろ。こうして僕たちの前例がないと言われたポジティブな退学は滞りなく終わった。ちなみにその数日後に焼きとり屋に先生たちが大勢で飲みに来てくれた。さすがにちょっと感動した。嫌いだった先生が急に愛おしく思えた。
退学など決して褒められた話ではなかったが、前例がないという言葉はポジティブな言葉だ。前例がないと言われれば、前例になればいい。世の中で起きているすべての事柄も初めは前例などなかった。どこかの誰かさんが最初にやっている。ちなみにこの世で初めて蟹や海老を食べた人は本当にすごいと思う。
それ以降、前例がないという言葉は「あなたに期待しているよ」という言葉だと置き換えることにした。「今に見とけやー!」とワクワクすることにした。僕が実際にお店を開業できたのもこの時の嘘が真になったのかもしれない。嘘から出た真、である。
余談だが、退学を決めてから母親に「俺、学校辞めるわ」と話すと母は「あっそう、で、次は何するの?」と言葉を返した。退学の理由など訊かない肝っ玉母ちゃん、本当に尊敬する。
もう一つ余談だが、お店を開業して一〇年経つ今でもあの時の校長先生の姿が見えない。お元気だろうか。この本が世に出回り、この章を読んだことで足を運んでくれるのではないかとワクワクしている。校長先生、生きているうちに早く来てください。
★トライアル:誰もやろうとしないこと、非常識と言われることを一つやってみよう!