ノースクロスの規則では、学校を卒業すると全員何某かのプレゼントに関わる仕事に就くことになるのだが、大きな分類としてプレゼントを作る班と配る班に分かれており、最初は製作班からキャリアを始めねばならない。
プレゼントの内容は玩具であったり、服や帽子、靴、また食べ物の場合もあり、多様性に富んでいる。子供たちから届く手紙の内容に対応できるように、あらゆる種類の工場が稼働しているのだった。
製作班で一定の年数を過ごすと、プレゼントの配達班を希望する者は適性試験を受けることができる。合格した者がトナカイとコンビを組んでプレゼントを配達するのだが、これは大地の世界に行くということであるから、より厳格なサンタクロースとしての心構えが必要とされる。
残念なことに、アドニアは年に一度しかない試験に、二年連続で失敗しているのだった。もし合格すれば、ノースクロス史上初となる、女性配達班の誕生になるのだが。
アドニアは大きく息を吸い、
「わかりました。私に期待されている以上の能力をもって事にあたります」と、背を伸ばして一礼した。
「ありがとう。では早速だが、今夜遅くに立つ準備をしてほしい。ラブロフと一緒に行くのだ。今後の方針はあいつに伝えてある。よろしく頼むよ。それと、出航許可証を忘れないように」
バーニエールから目の前に白地の大型封筒が差し出された。中央に一目でトラザドスの顔だとわかる略式のイラストがある。この中に話に聞く出航許可証が入っているのか。本物だ。ずっと待っていた本物がこの中に。アドニアは両手で封筒を受け取ると、無言で更に大きく腰を折り、さっと踵を返して部屋を出て行った。
扉の中では、しばしの沈黙の後、バーニエールが心配そうに長い息を吐いた。
「……大丈夫でしょうか」
「今更案じても仕方ないだろう。信じて果報を待とうじゃないか」
トラザドスは立ち上がって窓際へ移り、軽快なステップで帰るアドニアの後ろ姿を見下ろしている。
「なぜ自分が選ばれたのか、聞きませんでしたね」
レムニーが独り言のように呟いた。
「聞かれなくて幸いです。今の時期に暇な人材はこの国じゃあなたしか残ってないなんて、私も答えたくないですから」
バーニエールが返した小さな声に、離れて背中を向けているトラザドス以外はもっともらしく頷き続けた。