(五)卒業と別れ
三月十日卒業式が終わり、クラスの打上げなどすんだあとは、二人に残された日はわずかであった。これからの長い別れの事を考えると一緒に歩いていても楽しいというよりつらかった。緒田啓子の方は会っている間中涙を流していて、大切な事を何も決めず、Y駅で涙の別れとなってしまった。
前々から、別れる時は笑顔で別れようと決めていたのに、それは全く無理だった。
沖田はG大学のカリキュラムがすぐに始まり、研修やアルバイト病院の割り当ても決められていて、新しい大学での新しい生活が待っていた。G大学の同級生とも打ちとけて新しい充実した日々が送れた。
緒田啓子から送られてくる手紙には、耐えられぬ程つらい毎日を過ごしている事、今更ながら、何故引き止めなかったのか、自分を責めていると書かれていた。生活に支障をきたしているであろう姿が目に浮かび、沖田は心が痛んだ。
別々のコースを選んだ以上、別れている事は避けられない事だった。二人には、将来のために実力をつけてきちんとした医者になるという大切な目標がある。臨床の実習、現場はますます多忙となり、責任の重い仕事も増えてきて、勉強する時間はますます必要となった。いい加減な研修は許されない。
そんな中で、わずかな時間を見付けて手紙を書き、無理をしながら会う機会を作った。