第二章「雫との出会い」
「みなさん、ご入学おめでとうございます。今日からこのクラスを担当する石川早紀です。今日からみなさんは中学生になりました。新しい環境への不安もあると思いますが、中学校でしか得られない経験がたくさんあります。これからの学校生活が充実したものとなるよう、みんなで一緒に頑張っていきましょうね」
窓の外に目をやると、桜が舞っている。春とはいってもまだほんの少し肌寒い。入学式の前に見た掲示板に自分の名前があった一年三組の教室に入ると小学校から見知った顔がほとんどだ。今朝までは不安の方が大きかったけど、式が終わって教室に戻ったころにはこれからの学校生活が楽しみになっていた。
「よかったー、透とまた同じクラスだ」
「隼人とは小三からクラスが一緒だね。またよろしく」
左の席の佐竹隼人は幼稚園からの幼馴染。家が近いし親同士も仲がいいこともあって、休日はどちらかの家に泊まったり、家族ぐるみで一緒にキャンプに行ったりするような間柄だ。隼人は新しいクラスに緊張を隠せないようで、きょろきょろとあたりを見渡して落ち着かない。
「このクラス可愛い子多くない?」
「……そうなの?」
「透は本当にそういうの興味ないよな。せっかくモテるのに」
はぁ、と小さくため息をついてちょっとだけ呆れたように言う。決して女の子に興味がないわけではないし、誰かが告白したとかいう話を聞くと気にはなるけど、正直僕にはまだ好きとかそういうのはよくわからない。小学校のときに好きだと言ってくれた子は何人かいたけど、どう返事をするのが正解かわからずに困っていると、泣かれてしまったこともあって嫌な思い出となっている。隼人はすぐにあの子が可愛いとか、この子が気になるとか、いつも楽しそうにしているのでちょっとうらやましい。
「なあ、俺の隣の子」
「何?」
「ちょっとよくない?」
ひそひそと目配せする隼人の視線の先に目を向ける。低い位置に一本にきっちり結ばれた長い黒髪、一番上までしっかりととめられたブラウスのボタン。不安そうな表情で先生の方をまっすぐに見つめている色白で小柄な女の子。
「真面目そうな子だね」
「……それだけ?」
「だって話したことないし」
「モテモテの透くんにはああいうよさがわからないんだなー」
なんだよ、とちょっとムッとした表情で返すとからかうように笑われる。