十四、東日本大震災
二〇一一年三月十一日、あの東日本大震災は、静かな午後に突然やって来た。
当時店にいた私は、突然床ごと、ガッチャ、ガッチャと大きく左右に揺さぶられ、立っていられず、思わず腰を低くした。それでも、手は、落ちてきそうになる、三十万円以上すると言われているコーヒー豆用の真空機を必死で押さえていた。
今まで体験したことのない揺れがおさまるまで一、二分だったのだろうけれど、五分以上揺れていたようにも感じた。揺れがおさまって、マルセンの店内を見回すと、床一面に棚の商品が散乱し、ハチミツやジャムのビンは割れ、電気は消えている。数人のお客様と外へ出ると、向かいの郵便局の人たちもみんな外に出て、フェンスに摑まっている。
その巨大な揺れは、海に面した隣町の、亘理町や山元町の方からやって来た感じがして、そちらの方向を眺めていると、また、大きな余震が来た。お客様には、とりあえずお帰りいただいて、店を閉めて店内の片づけに入る。『もしかしたら、このまま大好きなお店を、営業できなくなるのかしら』と悲しい気持ちになる。
しかし、克裕は他の人とは違っていた。蔵の中のずれた棚や、落ちた商品、棚が倒れて入れなくなっている裏の作業場と、次から次へ、まるでブルドーザーのように直していく。どんな時も、決して後ろを向かない人だ。
余震は半年ほど続いていた。まるで地球が病んでしまったかのようだった。