新たな挑戦の幕開け

右往左往しながら、東奔西走《三十五歳》

エンゼルスとのビジネスを正式決定してから、恭平は父親と弟に再度コンビニエンス・ストアの仕組みを説き、その延長線上にひろしま食品の将来が在ることを切々と説いた。

半信半疑で聴いていた二人だったが、間も無く六十八歳になる父が口を開いた。

「詳しいことは解らんが、儂はこれから何をすればいいんだ」

「社長は、新しいビジネスには口を挟まず常務に任せ、従業員食堂の経営だけに専念してください。でも、資金繰りだけは厳しくチェックをお願いします」

「誰よりも、エンゼルスとの新しいビジネスで肝心なのは常務だ。常務がどれだけ本気に取り組むかで、ひろしま食品の将来が決まる。これまでみたいな中途半端な考えを捨て、エンゼルスのMDとQCの指示を守って、美味しくて安全な商品を作って欲しい。私も一日に一回は必ず顔を出すから、困ったことがあったら何でも言ってくれ」

「……」

一瞬、常務の表情に動揺が走ったのを見逃さず、恭平は問うた。

「どうした、何か納得できないことでもあるのか⁈」

取引開始までの経緯も知らず、このチャンスがどれだけ恵まれたものかも理解せず、目先の自分のことだけを想って不安顔の常務に、恭平は独り善がりな腹立ちを覚えた。

「いや、コンビニエンス・ストアって、専務が言うように本当に伸びるんだろうか。広島のパイレーツの弁当だって、そんなに評判は良くないし……」

「その通りだ。ナイト・ショップと銘打って時間的なメリットだけで店舗展開するパイレーツの弁当は、自社工場で作っている。売り手と作り手が同じ会社だと、どうしても妥協が生まれる。その点、エンゼルスは販売に全責任を持ち、製造は我々ひろしま食品が責任を持つから、相互に甘えや妥協が生じ難く、価値ある商品ができるんだ。もし、万が一、弁当が売れなかったら、それは我々の商品力が劣っているからだ」

「でも、店が増えなければ、弁当も売れないんじゃないの……」

「三十坪程のエンゼルスの店には、三千品種の商品が揃っている。その使い勝手の良さと便利さが評価されて、既に全国十一の都道県で千二百店舗以上も出店しているんだ。広島に出店すれば、間違いなく近い将来に百五十店舗は期待できる」

「我が社がやっていた直営店は弁当だけの販売、昼だけの営業だったから経費が嵩み、採算が合わず撤退した。しかし、エンゼルスとのビジネスにおいては、無駄な販売経費は必要なく、我々はモノづくりに専念すれば良いんだ。シツコイようだが、売れるか売れないかは商品次第、我々次第だ!」

これまでも話して聞かせた説明を、辛抱強く繰り返す恭平に意外な言葉が返ってきた。