たとえ話の主人公成田さんは南小岩、なかなかのマンションに住んでいる。マンションに入るにはコード番号を入力するか、インターホンで訪ねていった人に連絡して、ドアを開けて貰うしかない。防犯カメラも、玄関、ロビー、駐車場、庭、中にも外にも、至る所に有る。もちろん防犯カメラは犯罪抑止のためである。わざと見える所に設置される。さすがに成田さんは、今日は会社を休んでいた。

「いや~困りました。昨日お店に行って色々話を聞いてきたんですけど、怪しい人が見当たらないんですよ。ただ強いて言えば、一番怪しいのは成田さん、貴方という事に成ってしまうんです」

「だから貴方にお願いしたんです。犯人が探偵に依頼するわけないじゃないですか。しかも私には」

「分かってますよ、貴方には確かなアリバイが有る。ところでどうでしょう、違うって事を、もっと確かなものにしませんか」

私はそう言って、成田さんから色々話を引き出した。勤めているのは墨田区に在る大手生活用品メーカー『エッセンシャル』で役職は係長。そこそこ良い給料は貰っていると思われる。マンションはローンで月十三万円。車は高級国産車で、バイクが趣味。多少贅沢な暮らしに見える。

「下世話な質問ですが、今回奥さんが亡くなった事で、幾ら位の保険金が入るんですか」

「やっぱり、そうきますよね。隠さず申し上げましょう。ですがこれみんな、最近入ったものでは無いですよ。結婚してから少しずつです。親戚に保険の外交やっている者が居ましてね、それはもう必死に頼まれまして。保険証書、ご覧になります」

「すみません、疑うわけでは無いですけど、一応念のため」

生命保険が三千万、医療保険の死亡時一千五百万、個人年金の死亡時一千万、合計五千五百万。少し多いが、疑うほど大きな金額では無い。しかも確かに最近入った物では無かった。私はここで生活費を頭の中で計算してみた。手取り五十万として、ローン、管理費、車とバイクの保険と維持費、駐車場水道光熱費、通信費、食費、生命保険料……、ぎりぎりかな。子供が居れば、ちょっとキツいかもしれない。しかし、そんな程度である。

「最後に伺いますが、奥さんと何かトラブルを抱えていた人、知りませんか」

「何を仰います。それを調べて貰いたくてお願いしたんですよ」

「そうですよね」

不思議なもので、私の頭は成田さんを疑っている。今思えば、イレンダではいかにも白々しかった。時間も気にしていた。奥さんと口頭で約束を取り付けられもする。成田さんとは一体どんな人なんだろう。成田さんの会社の人に聞くのが一番良いのだが、何のツテも無い。

英語では刑事も探偵も同じディテクティブだ。しかし偉い違いだ。堂々と捜査出来る刑事が羨ましい。いつも思う。

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