第一章  ヨーロッパでの生活

NATO軍駐留から三ヶ月が過ぎようとしたある日、ベンス郊外の閑静な住宅街に戦車部隊が乗り込んで来た。カスター一家は、近くに住む親戚と庭でパーティーを楽しんでいた。そこへ突然、銃を持った兵士が乗り込んで来て、いきなり反体制派の幹部を匿っているだろうと言い放ち、家に上がり込み家中を無茶苦茶にしながら探したが、見つからない。すると突然銃口をお父さんの頭に突き付け、どこに隠したのかと迫るのであった。

その場にいたカスター家の人達は何の事だか全く理解出来ず、特に子供達にとっては、ただ恐ろしいだけであった。双子のボブとケント、いとこのマイケルはまだ7歳、恐怖で立ちすくんでいた。すると兵士の一人が三人を家の中へと連れていき、中にいるようにきつく言いつけた。すると三人は、お父さんお母さんそしておばあちゃん達の姿を心配そうに見つめていた。

兵士の数はどんどん増え、銃を構えたまましつこく幹部の居場所を聞いていた。半時程が過ぎた頃、銃声と共に庭は血の海へと変わった。三人は信じられない形相でただただ立ちすくむだけであった。三人にはその恐ろしい場面が脳裏に焼きつけられた。血の匂いがした兵士が家に押し込んで来て、三人を外へと連れ出した。

「お前達の親はテロリストだが、お前達に罪はない」と傲慢に言い放った。三人はただただ恐ろしく、家族を殺されたのに涙も出ない。だが、ボブの目には兵士のヘルメットの大きな星条旗とCの文字が焼き付き忘れる事は出来なかった。そして、心の底で必ず仇を取ると誓ったのだ。

三人はNATO軍の施設に保護され、女性保護官がとても親切にしてくれ、少しずつ食事も取れるようになり落着きを取り戻していった。だが、夜になるとあの恐ろしい出来事がよみがえりうなされる日々が続いた。12月25日のクリスマスにアメリカの保護施設へ移る事が決まった。子供とはいえ、三人とも生きていく決心をしており、アメリカへと渡って行った。