初めて徳島へ向かう途中、車窓の右手に広がる瀬戸内海の美しさ、鳴門大橋に掛かると左手に見える怖いようなうず潮の壮観、改めて日本の美しさ、変化に富んだ、言葉では言い表すことのできない素晴らしさに誠もすっかり感動していたようです。
そして第一番札所霊山寺に着きました。そこで白装束の帷子、杖、納経帳などの巡礼用品を買い揃えました。いよいよスタートです。まず霊山寺で無事結願を祈り、納経帳に記帳と御朱印をいただきました。お四国巡りではお大師さんをお祀りしている大師堂とご本尊がおられる本堂の両方にお参りします。細い短冊様のお札を納め、二人で二番極楽寺、三番金泉寺と巡拝して行きました。
スタートする前、自転車で巡ろうと決めた時点で二人である取り決めをしていました。巡礼道路には国道もあれば県道もあります。遍路道は四国の大動脈とも重なっており、交通量の多い道路を走行しなければなりません。当然、トラックやダンプ、バスなどの大型車輌が猛スピードで走っているため、二人が自転車を並走させて行くのは危険です。そこで縦列で行くことにしました。
ただその場合、前を走る者が後方を何度も振り返るのは危険ですので、二人で取り決めをしたのです。
「チリ、チリン!」と自転車のベルを鳴らすこと。前の者がベルを鳴らし、その音が聴こえたら後の者が「チリ、チリン!」と鳴らして応える。「チリ、チリン!(大丈夫かあ?)」「チリ、チリン!(大丈夫!)」の合図を送り合う。そういう決まりにしたのです。
今思えばその「チリ、チリン!」の音を聞くたびに、お互いの走行の安全・無事を確認するだけでなく、私と誠が親子の絆を感じ合っていたような気がしてなりません。私には一生忘れることの出来ない音色となりました。
今も誠のことで心配になる時があれば、私の心の中で「チリ、チリン!」。