六つの教訓

孔子は旅を続けている中で、なにやら()()が悩んでいるのに気づきました。

子路は、師匠が仁の話をするたびに、自分なりに理解はできるものの、自分の性格は荒っぽくて粗雑なところがあり、そんな自分が、果たして仁の心が身につくのかどうか、自信がなかったのです。そこで孔子は子路にアドバイスしました。

「子路よ、仁を理解する上で、ここに六つの基本的な教訓があるのだよ、聞いたことはあるかね」

子路は答えました。

「六つの教訓ですか、聞いたことはないですが、それはどのような教訓ですか」

子路は目を輝かせて聞きました。

「まず一つ目は、真剣に学ぶことです。仁の心を究めようとしても、人類の英知や人類の歴史を学ぶことを疎かにすると、その結果は目に見えています。自分が愚か者になるということです。学ばずに仁の心が身につくなど、あり得ないのです」

「二つ目は、謙虚に人の話に耳を傾けること。自分の判断のみに頼って、他者の意見を聞かなかったり、過去の歴史を学ぶことを疎かにすると、間違いを犯すことになるということです。人の話に謙虚に耳を傾け、素直に学ぶことで、難しい問題に直面しても、最良の判断ができるようになるものです」

「三つ目は、人からの信頼のみに頼らないことです。信頼されているから万事大丈夫だと安心して、努力することを怠り、学ぶことをやめてしまえば、いつかはその信頼をなくすものです。たとえ人から信頼されていたとしても、やはり謙虚な姿勢で、つねに努力する必要があるということです」

「四つ目は、かたくなに筋の通った正しいことを押し通そうとしないこと。正義感は大事です。正しいことにこだわることも必要です。しかし、あまりに自分に厳しく、筋の通ったことにこだわりすぎると、人に対しても優しくなれないものです。自分だけでなく、家族や友人にも完璧さを求めるあまり、人に冷たく、厳しく接するようになってしまいます。そして、自分自身も、自由な行動や自由な発想ができなくなってしまい、みずからの人生を縛ることになってしまうのです」

「五つ目は、勇気の害です。子路には勇気があります。勇気があるのはすばらしいことです。しかし、よく考えもせずに、ただ勇気だけで突き進むと、周囲に迷惑をかけるだけで、かえって喧嘩になったり、混乱や戦争を引き起こすことになるものです。勇気とともに、慎重さや謙虚さも必要なのです」

「六つ目の教訓は、自分の意思にこだわりすぎないこと。強い意思を持つことは大事です。立派な人はみな、強い意思を持っているものです。しかし、強い意思も大事だけれど、あまりに、かたくなになって、自分の考え方や、自分の意見ばかりにこだわると、家族や友達、周囲の人の考え方を理解しようとしなくなり、常識から外れてしまうこともあるのです。自分の意思を大事にしながらも、みんなの意見にも耳を傾けることが大切なのです」

子路は、孔子からこの六つの教訓を聞いて心から感動し、自分の性格にぴったりなこの教えを日々の生活の中で実践することにしました。