村上家の人達と私の住む県の隣県に、温泉で知られた町があります。

その温泉町の外れに、昭和の初めの頃に開通した、全長八百メートル程の隧道があります。温泉町から隣町へ抜ける為ばかりではなく、その先の都市への移動を画期的に便利にしたこの隧道は、近くの山一つを別荘地に変える契機となったのかも知れません。

隧道を抜けると右手に盆地が広がり、盆地を囲む山が幾重にも連なって見えます。

右手にその別荘地はあるのですが、その入口に辿り着くには、舗装されこそすれ、杉林に囲まれた、うねうねと曲りくねり、傾斜のある道を暫く走らなければなりません。

別荘地は、半世紀程前に大手開発会社が拓いた、天然温泉付の道路も広く舗装された、総面積二百ヘクタール、標高五百五十メートル、総区画数二千の管理事務所兼売店にレストランが併設された大規模なものです。

道路は各区画に分けられた土地に沿うように、曲がりくねりながら登ってゆき、頂上の少し手前あたりまで続いています。この山の端からは谷を挟んで対面に、同じような低山が連なり、その森は春の若葉や山桜、秋の赤や黄の紅葉が美しく望めます。

この道路の終点は、行き止まりとなった折り返し点で、駐車場はありませんから、この一番高い場所に来るには、管理事務所の出す本数の少ない巡回バスか、徒歩以外にありません。

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