【前回の記事を読む】性同一性障害の児童に突きつけられた現実「僕が女子だということが証明されてしまう」
居場所
夜、成希が現れた。成希は萩野よりもずっとバスケが上手で、身長が高くて、いつも村瀬の側にいる。成希は村瀬を夢中にさせた。僕は布団を村瀬と思って抱いた。いつもそれに満足して眠りに就く。しかし、その日は泣きながら布団を抱いていた。胸が痛い。僕は何かに取り残されていく。僕の心は女に変わってしまうのだろうか?
絶対に嫌だ。村瀬はいつか男と結婚する、ずっと先のことなのにその男に嫉妬をした。涙が止まらない。生理が来たのはその授業から数カ月後の土曜日だった。
家で男友達と遊びに行く準備をしていた時に股間に嫌な熱さと違和感を覚えた。さらに、自分から発せられる独特の匂い。僕は急いでトイレへ駆け込んだ。ぞっとした。下着が真っ赤になっていたのだ。すぐにそれが生理だということが分かった。僕は下着を履き替えて、トイレットペーパーを何重にも巻き友達の家へ向かった。僕の頭の中は不安に覆われていた。変わりゆく性の成長。それを止めることはできないのだと知った。せめてもの抵抗でナプキンはつけなかった。とにかく僕は誰にも知られたくなかった。
頭を抱えたのは水泳だった。突然に来た生理で、駆け込んだのは保健室だった。僕は仮病を使った。保健室に入ると優しそうな先生が迎えてくれた。
「横関さん、珍しいね。どうしたの?」
「お腹が痛いです」
「お腹? 大丈夫?」
「はい」
「次の授業は何?」
「水泳です」
僕は俯きながら言った。先生は何かを察したように僕を招き入れた。
「もしかして生理来てる?」
図星だった。しかし僕は認めたくなくて、
「生理って何ですか?」
そう言うのが精一杯だった。
「ううん、まだならいいんだけど」