我慢することも大事

孔子と門下生の一行は、さまざまな国を回って旅を続けていく中で、弟子も自然に増えていきました。弟子が増えれば増えるほど、旅費や生活に必要な食事代などが大変になっていきました。商売上手な弟子の子貢が、さまざまな商売を手掛けて 稼いだお金で、なんとか旅の生活費を工面していました。そんな中で食料が足りなくなってしまうこともたびたびありました。

時は戦争の絶えない時代でした。ある国を通りかかった時には、その国をめぐって二つの国が戦争を始めてしまい、孔子一行は、その戦争に巻き込まれ、戦場の真ん中で身動きが取れなくなってしまい、立ち往生してしまいました。

その時などは一週間も、飲まず食わずの日々が続きましたが、孔子はなにごともないかのように、平然としていました。さすがの弟子たちも、お腹がすいてしまって、いつも通りに振る舞っている孔子に、皮肉のひとつも言いたくなり、子路が先生に文句を言いました。

「先生のような人徳者であっても、このように食べ物もなく、苦難に直面することもあるのですか」

孔子は言いました。

「もちろんある。どんなに人徳が高くて、教養にあふれた人でも、すべてが万事うまくいくわけではないし、いつも食事ができるわけでもない。苦難に直面することはあるものだよ。しかし、困難な時であっても、忍耐のない人と違って、私はうろたえたり、あわてたり、誰かに当たり散らしたりもしない。

子路よ、我慢することも大事なのだよ。人徳者は、つねに正しい道を究めることを望むが、食料を欲したりはしないものだ。田んぼや畑を一生懸命耕しても、うまく作物が実らずに、不作で食料に困って飢えることもあるだろう。しかし徳を学び、徳を磨き、仁の心を身につければ、その人徳によって食料は自然に得られるようになるはずだ。そのような人は、徳とはどうあるべきかについては、思い悩んで心を砕くが、食事ができなくて、貧しいことについて思い悩んだりはしないものだよ」

そのような話をしていると、孔子の一行を守ろうと、楚の国が 護衛のための軍隊を派遣してくれたのでした。楚の国の国王は、かねてから徳の高い孔子を尊敬し、仁の気持ちを大切にしていた人でした。幸いにして、孔子たちは、楚の国の護衛に守られながら、無事に戦場から逃れることができました。

子路は、やっと安心して食事ができるようになった時、「人徳によって食料は自然に得られるようになる」と言った孔子の教えを思い出しました。孔子の人徳と、まさにその徳を尊敬する楚の国王に助けられたことを振り返り、徳を磨き、仁の心を身につけることの大切さを身に染みて感じたのでした。

そしてお腹が空いて師匠に当たり散らしたのを恥ずかしく思い、反省しながら、旅を続けたのでした。孔子と弟子たちの旅は、こうしてさまざまな経験を経る中から、学びや気づきを得る機会でもありました。そしてそれは十四年間にもわたって続いたのでした。