二〇二〇年頃には、過去三百六十万年の間に十一回の地磁気反転があったことが判明していた。当時判明していた記録では、最も古い地磁気反転は、約五百八十九万年前に起こり、その時から八回の反転を経て約三百五十八万年前にも反転したことが判明した。

この約五百八十九万年前から約三百五十八万年前までの間をギルバート期と名付けられている。最も近年の地磁気反転は、約七十七万年前に起きたことが有名なチバニアン地層でも発見された。その後、さらに古い地層での地磁気反転の発見があり、今回、アラン教授が発見した約九百万年前にも地磁気反転があったことは別の研究者が報告していた。

しかし、その反転時に、地殻の変動を伴っていた可能性がある発見は、アラン教授が初めてであった。そして、どういう解釈が出来るかに悩むのもアラン教授が最初の研究者となった。

アラン教授は、採集した資料や化石類を研究室に持ち帰って、改めて詳しい年代の測定を行った。研究所にある年代測定設備は、ウランと鉛の存在比率から判定する方式で、国際的に認められている高精度の年代測定法である。これによって測定した結果は、持ち帰った地層の年代は、八百九十五万年前となり、測定誤差は〇・五万年であった。

地磁気反転層に接する上側の隣接地層と下側の隣接地層とで年代の違いがないことも判明した。また、地磁気反転層が極めて薄く、時間をかけて反転したのではないこともはっきりしたのである。

このことから何が推定されるだろうか。アラン教授は、助手のアニタ・ベルマーおよび発掘を手伝っている大学院生たちを呼んで、考えられるあらゆる仮説を書き出してみた。

仮説一 地磁気反転と同時に大地震または火山噴火が起き、それまで海中千メートルに在った海底が一気に隆起して山地となった。

仮説二 地磁気反転と同時に、何らかの原因で地殻がずれ、赤道に近いため水深が深かった地点が、北に移動して海水面が下がり浮上した。

仮説三 地磁気反転は時間をかけて起き、地殻の隆起も比較的ゆっくり進んだが、その後、山体崩落が起き、たまたま地磁気反転層の上部を削る形で上から古い山地層がずり落ちて重なる形となった。