おれは頭の中で今見た全てのことを思い出して繰り返しやってみていた。気づくと赤ちゃんに人差し指を握られ、しゃぶられていた。三十分ぐらい経っただろうか、おやじさんが荷物を抱えて帰ってきた。
「オムツとミルクとお前の夕飯だ」
そう言うと赤ちゃんを抱き上げて「おまえは風呂そうじをして湯を溜めて、待っている間に飯を食え」と言った。
なにげなく時計を見るともう八時を過ぎていた。この子を見つけてから二時間ちょっと、ただただ呆然とおやじさんと赤ちゃんしか見てなかったから時間の感覚が変だ。ほんの数分しか経っていない気もするし、もっと何時間も経ったような気もする。
おれはおやじさんに言われるがまま、風呂そうじをして、飯を食い、そしてまたおやじさんを見た。おやじさんは赤ちゃんを床に腹ばいにして何やら眺めていた。
「なぁ、いったい何をしてるんだ」
おれの問いかけにおやじさんはこう答えた。
「うん、まだハイハイはしないらしいから。五～六ヶ月ってくらいだろうな、この子」
おやじさんは優しく呟いた。
「あぁこれはな、この子の月齢を見てたのさ。その子その子で発育には差はあるが大体はわかるんだよ、二人も子供を育てるとな。離乳食は早いと三ヶ月くらいでもう始めるし、ハイハイは七～八ヶ月くらいからはじまるんだ。ウンチのにおいをかげばわかるが、華ちゃんはたぶんもう離乳食をはじめてるだろう。ハイハイはまだできない五～六ヶ月って感じだろうな。正確ではないがたぶんそんなもんだろう」
おれからすると名探偵かと思えるようなことをさらりと言ってのけた。そうかと思えば、赤ちゃんをそのままにしておやじさんはおもむろに立ち上がり、タンスから二枚のバスタオルを出し、さっきのでかバッグの中から赤ちゃんの着替えを取り出して風呂場へ行った。
