自己との出会い、そして唐突な別れ

乗っ取られに気づく

このようにして彼女の背景を知ることができたのだが、カウンセリングは当初難航した。右のような経緯を話したのはいいが、こちらが質問したり、気持ちを返したりすると、感情が込み上げてきて涙が止まらなくなるのだ。かなり長い時間、泣いてはぽつりぽつり話し、また泣いては話すということを繰り返していった。

こちらは彼女が泣いている間も、うんうんとうなずいたり時には問いかけたりしながら話を聞いていった。泣くばかりで進まないときは、気持ちを静めるために薬を処方してもらうことを勧めもしたが、それはきっぱりと拒絶した。

しばらくして、ようやく泣く時間より話す時間の方が長くなり、クライアントとカウンセラーとの間で、言葉のやり取りと呼べるような関係が作り出されていった。

〈勉強していい大学に入り、さらに公務員になって、とにかくよく努力して、やろうと思ったことを成就してきた、それは並大抵のことではない、素晴らしいことです〉

〈成し遂げたのに気持ちがしぼんでしまうのはお母さんのせいに聞こえるが、お母さんに何か期待していたのですか〉

「とんでもない、母に期待なんかしたことはありません!」

〈自分の成し遂げたことをお母さんに利用されたような状況になり、まるでお母さんに自分の人生を乗っ取られたように聞こえるが、お母さんがどういう反応をしていたら満足できたでしょう〉

「……乗っ取られる……まさにそうだと思います……」

〈お母さんが悔しがるとか謝るとかすれば良かったのかな〉

「ありえない……」

〈お母さんを見返したいと思って何かしても、結局それは母親の存在があるから成り立つことで、母親の反応次第で自分の満足もすぐに崩れてしまう、自分が本当にしたいことや満足できることからは、かけ離れたものになっていってしまう〉

「わたしのしたことは意味がなかった、そういうことですか!」

〈いえ、あなたは大変なことを必死に乗り越えて、とても意味のあることをしてきたと思います、それを乗っ取られてしまわないようにするには、自分の中でお母さんと自分を切り離さないといけないでしょう〉