壱
佑介は、小学五年生なのになんとプロのサッカーの試合でピッチに立っている。子供でも実力さえあればプロになれる。エースストライカーとして嘱望されているのである。
巧みなドリブルで相手チーム選手の間をすり抜け、最後に立ちはだかった恩田圭介選手を前にして右足でボールをふわりと浮かせその頭の上を越えた、そして、豪快にヘディングでゴールを決めた、と思ったとたん、ガン! と大きな音がして、頭が痛い、と思ったところで夢から覚めた。
頭に当たっていたのは、ベッドの横の壁だった。そのすぐ横には、大好きなアニメのフィギュアがあり、それに当たらなくてよかったとほっとした。それを壊すのもショックだが、そこに当たっていたら、大怪我をしていたかもしれないと、安堵もした。そのフィギュアが、両手のひらを前に差し出す形をとっていたので、そこに頭が当たっていたら本当に大変だったな、と思う。ただ、その衝撃で、棚の上に置いてあったサッカーボールが落ちてきて頭に当たった。
佑介は、ぶつぶつ言いながら、これを袋に詰めると、ランドセルとボールを両手に下げて階段を下りた。
既に食事ができている。
母の裕美は、「何か、ドカンって大きな音がしたけど、どうしたの? ベッドから落ちた?」と聞いた。
妹の真理が「お兄ちゃん、また、変な夢でもみたんじゃない。この間も、レスラーと喧嘩して勝った夢をみたって言って、手を怪我してたし」
佑介は頭をさすりながら、「何でもないよ」と答えると、真理は、
「頭ぶつけたってことは、お笑いのあのコンビのまねして、頭を振ってぶつけたんじゃない?」
「そんなことするわけない、っていうこともないかもしれない」
裕美が、あきれた顔をして、顔を洗ってくるように促す。
真理はもうごはんを食べ終えてテレビを見ている。何をするにも要領がいい。
「それで、お兄ちゃん、ゴールは決まったの?」
佑介は意表を突かれて「ぶっ!」と吹き出しつつ、えっ、どうして夢のこと知ってんだ、こいつ、超能力者かと思う。