船着場を見つけて、船に乗って川を渡ると、弟子の子貢が孔子に尋ねました。
「師匠のような人徳者でも、人を憎むことはあるのでしょうか」
孔子は言いました。
「もちろん憎むことはあるさ。他人の悪口を言う人を憎むし、自分は楽な立場にいながら、責任の重い立派な人を、けなしたりする人を憎むよ。恐れ知らずなだけで、礼儀礼節をわきまえない人を憎むし、勇気ばかり一人前で、理屈の通用しない人を憎む。子貢よ、君だって人を憎むことがあるだろう」
子貢は答えました。
「たしかに私にも人を憎むことがあります。他人が努力して知り得たことを、さも自分が知っていたかのように、横からかすめ取って、平気でいる人を憎みます。態度に謙虚さがなく、乱暴でぶっきらぼうな人も憎みます。そして、人の秘密をあばきたてて、それを正直で誠実な行いだと思っている人を憎みます」
孔子は子貢の答えにうなずきながら、ひとりごとのように言いました。
「たくさんの人生経験を積んで、年が四十歳ほどにもなって、それでも人から憎まれるようだったら、人間おしまいだな」