妹の部屋に入り、服を着替えた。スタンドミラーの前で並んで立つと、体型はよく似ている。顔立ちは違っても、髪の長さと輪郭は同じだ。こんな風にしっかりと妹の顔を見た記憶がない。
「ごめんね、巻き込んでしもて。それと、庇ってくれてありがと。でも、びっくりしたわ。映美があんな風な喋り方するの、初めて聞いた、映美も反抗するんや、あの鬼母に」
「お姉ちゃん、わたしのこと何も知らんかっただけやよ。わたしにもわたしの人格があって、自分のこの先の目標とか将来の設計とか、きちんと考えてるんやから」
まだ中三の妹が、私より年上に思えた。両親がなぜ私を後継者にしたがるのか、それはこの風貌のせいだ。表に出して見映えのする外見、それだけのために私を選んだに過ぎない。学校の成績は映美の方がずっと良く、私は小中高とエスカレーター式で上がれる女子校に行っているが、映美は公立の進学校だ。
「映美、さっき言ってたやない。わたしじゃお姉ちゃんの代わりになれないんかって」
「ああ、あれはその場凌ぎに言うただけやから。気にせんといて」
きっとそう言うだろうと思っていたが、表の言葉じゃなく裏側の本意が知りたい。
「ほんまは、継ぎたいんやないの。映美は成績もええし、私よりずっと何もかもに優れてる」
鏡に写った相手を見ながら、互いの胸の奥を探り合う。
「お姉ちゃんは、この家を継ぎとうはないの? せやけど、お姉ちゃんがそう思っていても、そんなんパパとママが許さへんわ。お姉ちゃんは、生まれながらにして跡継ぎとして育てられてるんやから」
昭和やって、その考え。生まれたときに将来が決められてるなんて、ありえない。
それに映美も神崎家の血が流れている。私だけが受け継いでいるわけではない。もし私がいなければ、映美がここの跡取りとして育てられた。映美が将来にどんな展望を考えているのか想像できないが、この家の跡を継ぐ義務と権利は、映美にもあるのだ。