うん――。次の日、予定通りに行動を起こした。案の定、裏口から出ていく私を、誰も見とがめなかった。
「どうしたん、珍しい格好してるやない」
待ち合わせた会場前で、友達が開口一番に言った。
「うん。意味はないけど、たまにはええかって思うて」
準備していた取って置きの服は、DCブランドのTシャツと黒のギャバジンのショートパンツ、踵のあるサンダルだった。でも今の格好は、ノンブランドのTシャツにこれも無名のサロペットのジーンズ。おまけにスニーカーと黒キャップだ。当然布袋の中に、ペンライトも団扇も入っていない。
それでも存分にはしゃいで家に帰った。思った通り母親は、鬼も逃げるような顔をして玄関に出てきた。その後ろに、散々𠮟られただろうに笑いを堪えている映美が居た。
「こんなこと――。こんなことして、ただですむなんて思ってないでしょね」
ただどころか、札束を積み上げても堪忍して貰えないだろう。
「あなたは自分の立場ってものが、まるで分かってない。この家の後継者としての覚悟がなさ過ぎる。分かってるでしょうけど、明日からは学校以外の場所への外出は禁止です。学校も、車での送迎だから」
車で送迎って、ドラマに出てくるご令嬢やないって。それに、どこをどう引っ繰り返せば覚悟なんてものが出てくるのか。自覚と言われても、私には地面を掘って地球の反対側に行くくらいの距離がある。
「ほんとに、あんたって子は――。映美をいいように利用して。それでも姉なの」
普段は映美の存在すら忘れているのに、こんなときに限って引き摺り出してくる。
「ママ、違うって。わたしが代わるって言うたんよ。お姉ちゃんから言い出したんやない」
初めて、妹の自己主張の言葉を聞いた気がした。
「それに、なんでわたしではダメなの。わたしでは、お姉ちゃんの代わりはできないの」
母親は呆気に取られたような目で妹を見ていて、私はその言動にびっくりのあまり呆然と突っ立っていた。それが妹の本音なのか、それともこの場を凌ぐための張ったりなのか分からない。でも、妹が私を庇ってくれたことは確かだ。母親は妹の言い分に何も言い返せないのだろう、もういいから、そう吐き出すと自室に入っていった。