【前回の記事を読む】職場内の日中関係悪化…追い打ちをかけた「脱日入中」戦略とは
帰任命令
3日後、神岡は古川総経理から事業計画をもらった。今後3年間の売上予測を見ると、自動車メーカー以外の会社への売上もあれば、本社の顧客の系列以外の自動車メーカーへの売上も含まれている。日本では系列を重視するので、部品メーカーがライバルの企業に製品を納めることは考えられなかったが、中国ではあまりそのような束縛はなかった。古川総経理が中国人の営業や技術責任者とこっそり新プロジェクトを進めていることは知っていたが、極秘プロジェクトのようで、あえて積極的に聞かなかった。
また、自動車部品の場合、特に新車種の開発期間が長いため、試作品の制作開始から量産まで通常2、3年かかる。売上予測からすると、極秘プロジェクトはすでに実を結ぶ時期になってきたようだ。山田グループでは、新規製品の開発や製造などについて、現場の事業長の判断と予測を最大限に尊重し、管理部は事業部の要求をできるだけ実現させる文化が浸透している。
神岡は入社当時、何回か事業部に商流や物流の変更をお願いしたことがあったが、「我々は利益を出すために仕事をしてる、会計や税金のために事業部の方針を変えるのは本末転倒だ」と、いつも怒られていた。そして、事業長の作成する事業計画の真実性を確認したいと申し出ると、「それは、営業部長である俺に会計仕訳は合ってるかと聞くのと同然で、極めて失礼だ!」と門前払いされていた。神岡は古川総経理の事業計画に基づき、繰越欠損金に対応する繰延税金資産を計算した。
当期損失2000万元×25%(企業所得税率)=500万元
そして、財務部のアシスタントに指示し、2014年12月度の財務諸表に次の税効果会計の会計仕訳を反映させた。
(借方)繰延税金資産500万RMB(貸方)法人税等調整額500万RMB
作業を終えた財務部のアシスタントは不思議そうに神岡に質問をした。
「神岡部長、この仕訳の意味が全然分かりません。どうして欠損が資産になるのですか?」
「欠損の繰越控除制度って、聞いたことはあるか?」
神岡はアシスタントに逆質問した。
「はい、損失が出た年に企業所得税を納める必要がないだけでなく、その以降5年間にかけて、その年の利益から引ける中国の制度です」
アシスタントは中国の簿記試験に合格したばかりで、知識はしっかりしていた。
「その通り。ということは、来年たとえ2000万元利益が出ても、企業所得税を納める必要がない。つまり2000万の25%に相当する税金は節約されことになる。よって、総経理は損失だと思っていても、我々の財務にとっては宝物で、資産だよ」神岡はできるだけ噛み砕いて説明しようとした。アシスタントはうなずいて、さらに質問した。
「確かにそうですね、分かりました。しかし、もしこれから5年間ずっと損失だったら、繰越控除制度を受けられず、資産と言えませんね」
「それは心配なし、古川総経理から2000万の何倍も利益が出る事業計画をいただいから……」
神岡の話がまだ終わっていないのに、突然陳思遠が部屋に入ってきて、大きな声でアシスタントを問い詰めた。