【前回の記事を読む】「共に生きる道を見いだせるか」2人の関係の分岐点とは…
来栖・葛城・真理の三角関係
二人とのつき合いが完全に途絶えて後のことだが、来栖は真理という人間が心の中に居続けていると思ってしまう時もあった。
自らの潜在意識に残り続けているのは確かだ。眺めるに比類なく美しい対象。恋愛対象としての真理の女としての魅力。そしてその女を失ったということでの失意と嫉妬の思いも少しは混じっている。
彼女の魅力を懐かしく思い続けるのは不思議なことではないとしても、葛城を妬ましく思う一方で、真理をわがものにしたいというような情熱が早くに萎えていく状況に陥るとは、自分でも意外な成り行きだった。
真理から遠ざかるというのは自らの意志で決めたことではなかったのか? 彼は様々な思いが体の中に渦巻いているのを感じ取った。真理から遠ざかろうとする意志とは裏腹に、今もなお彼女の美を求めているのは彼の浅ましさだ。
三人でのつき合いが続いていた頃には葛城の真理への気持ちなど、来栖自身それほど突き詰めて考えることはなかった。無意識にそのようなことを考えること自体を排除していただけだったのかもしれない。このことに気づいたのはつき合いが終わって、真理と葛城の二人が記憶から薄れていく頃だった。
それと同時に「緩やかな三角関係」という言葉を思いついた時点で、葛城のことはさておいても、真理に執着している自分の気持ちには、はっきりと気づくべきだったと思い当たった。